”ストレス応答系の失調”としての心の悩み

 

 人間というのは環境に生きています。外からはいろいろなストレスを受けます。それに対して、ストレス応答系と呼ばれる自律神経システムが自動的に対処してくれます。

 10段階で5のストレスには、5のストレスホルモンで中和させる、3のストレスには3のホルモンで返す。

 瞬間的、自動的なストレスコントロールによって、内部は平静に保つことができます。

 

 

 

 また、対人関係でも、ストレスコントロールが相手との“つながり”を作ってくれます。さながら相手とダンスをするように、ホルモンの波形は形作られます。

 このホルモンの動きが、「一体感」を演出してくれます。

 人からはストレスもやってきますが、ストレスホルモンが同じ波形を作ってくれている限りは、それは一体感と感じられるのです。

 

 

 

 

 ただ、トラウマを負った人は、ストレスホルモンの波形が狂っているので、人からのストレスは「一体感」ではなく、「ハラスメント」と感じられてしまいます。だから、人と一緒にいてもしんどいし、億劫で、楽しくありません。


 過度なストレスの場合も、ストレス応答系の機能がストレスを排出してくれます。嫌な記憶は、過去のものとして処理してくれるのです。記憶も身体の代謝であるといえます。しかし、トラウマを負った人の場合は、その処理がうまくいかず、処理されないまま、毒素(トラウマ)として残ってしまいます。

 トラウマとは、“記憶”というストレス処理系機能の失調なのです。
 ストレス処理という側面から、生きづらさや悩みをとらえると面白いことが見えてきます。

 

 

 例えば、甲状腺や副腎に失調がある人は、心の悩みを引き起こしやすいことが知られています。ちょっとしたことでも虐待、ハラスメントだと感じられたり、情緒が不安定で記憶もおかしくなったりします。これも自律神経で重要な役割を果たす機能が低下することがストレス処理システムに影響した結果であると考えられます。

 

 
 別の例では、発達障害の場合も、心の悩みを引き起こしやすい。原的な不安を抱えていて、些細なストレスでもトラウマ化しやすい。

 

 発達障害の方は、体温の調節ができなかったり、汗をかかない、感覚過敏など身体の問題でも知られています。発達障害とは「身体の失調である」という専門家もいます。

 

 体温の調節など自律神経系が、定型発達であればオートマティックであるのに対して、発達障害の場合はマニュアル操作であると例えられます。頭でコントロールしなければうまく動いてくれない。

 

 体温以外のストレス処理でも、頭でコントロールしなければならないので、些細なストレスでもやられてしまう。
 やられないように先回りすると読み違えて「関係念慮」に陥ってしまう。発達障害の方は、代謝がうまく働いてくれていないのです。

 

 

 トラウマを負った人も同様にストレス処理などの自律神経系に失調をきたします。とくに長期間のストレスには動物は対処できるようにはできていないため、HPA軸と呼ばれるストレス処理システムは狂ってしまう。

 

 すると、ストレス、記憶などが更新できなくなってしまうのです。処理ができないがないため、毒素(ストレス)が排出できない。嫌な記憶が抜けない。恥や罪の感覚にずーっとさいなまされてしまう。加害者も覚えていないようなことをずーっと記憶して、それが反芻してしまうのです。

 

 対人関係も悪く固定化されてしまう。小学校のころにいじめられたこと、親から「ダメな子」と呼ばれたことなど、その関係性をずーっと引きずってしまう。

 

 

 

 健全なコンディションであれば、新たなネットワークにつながりながら関係はどんどんと更新されていくので、過去の嫌な関係性も自動的に少しずつ変わっていきます。嫌な相手でもある時に「あれ?この人って、こんな人だったっけ」となります。それは自律神経が関係を自動更新してくれたおかげです。

 

 

 このように、心の悩みを、“ストレス応答系の失調”であるととらえると、皆様の生きづらさを本当に解決する糸口や悩みの本質が見えてきます。

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

 

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更新されない人間関係

 

 代謝がないとどうなるか?といえば、人間関係も更新されなくなる、ということです。
 通常、人間関係では、その距離感や、貸し借り(義理、人情)というものも 日々、計算、更新されていきます。

 

 人にしてあげたこと、してもらったことも、自動で計算されて、清算・完了されるのです。

 

 人間関係の在り方もそうで、力関係なども常に更新されます。
しかし、トラウマを負っていると代謝が止まっているような状態なので、その更新処理がなされません。

 

そのため、無限に義理堅いのです。関係を引きずるのです。

 

 

 よくある例では、

あるクライアントさんが、ずーっと母親の世話をしている。まだ介護になっているわけでもなく、お母さんは健康です。

 

 でも、なぜかお世話をしないといけないと思っている。
「家族だから当然」「私の義務」と思っていますし、やめようとすると罪悪感が襲ってくる。

 

 これも、本来は、そんなお世話は必要ない、普通の人たちをみてもそうです。反抗期で精神的に距離を取ってからは、社会人になって自宅を出たら、盆と正月くらいにしか実家には帰らない、ということはごく普通のことなのです。もちろん、親には恩はありますが、それは遠くから返すものだし、何かあれば、ということで、過度な罪悪感はありません。

 

※そもそも、親とは社会の代理であって、親子は世代間に関わりを下の世代に送りあっていきますから、自分がされたことを自分の子や周囲の人に返していくものです。産みの親に過度の罪悪感や義理をもつ、ということは普通のことではありません。親があまりにひどい親なら関係がキレて普通なのです(生みの親より育ての親)。

 

 しかし、トラウマを負っていると、無限に義理堅く、相手にかかわり続けようとしてしまいます。

 

 会社に入ったら、やめたら申し訳ないとして、しんどい環境にもかかわらず、居続けてしまう。

 

 ひどい彼氏にもずーっとつくして、かかわってしまう。

 周囲の人たちからは「やめときなさいよ」「そんなにかかわらなくてもいいのよ」とアドバイスされても、耳には入りません。かかわりをやめることは、相手を見捨てることだと錯覚しています。


 健全に代謝があって、関係性が更新されれば、相手への義理や人情も更新されていきます。

 そして、相手が応えてくれないのであれば、関係は完了するのです。そのことを「愛想が尽きる」といいます。

 

 トラウマを負った人たちは「愛想が尽きる」機能がマヒしてしまっています。

 

 

 普通の人は、想像以上に良い意味でドライなのです。
トラウマを負った人の感覚とは、まったく違います。

 

 

 人間関係も、日々更新されていきます。
子どものころの親子関係と大人になってからは全く異なります。どちらも成人ですから、徐々に対等な関係になっていくものです。

 

 でも、トラウマを負っていると、ずーっと子供のころの親子関係を引きずったようなかかわり方になってしまします。親が年老いていっていることもありのままに感じることができていなかったりします。

 

 あるいは、過去の苦手な人間関係も引きずってしまうのです。

 

 こちらが人間関係が更新されずにかかわるものですから、相手もそれに感応して、支配的に接してこられて「ほら、やっぱり何も変わっていない」と感じてしまうのです。

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

 

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更新されない記憶と時間感覚

 

 

 トラウマを負った人が、昔の友達と久しぶりに会うことがあります。話をしますが、当人が覚えていることを、相手が全く覚えていないのです。
「こんなことあったよなあ?」と聞いても、
「そうだっけ?」となります。

 

 覚えていたとしても、形が全く違うのです。
単に、時間がたってしまったから覚えていないといったことだけではなく、世界観自体が違うような感覚に襲われます。

 

 向こうは更新(アップデート)されているのに、自分は全く更新されていないんだ、といったことに気が付くのです。

これはまさに、トラウマを負った人に特有の感覚です。

同窓会はとても違和感を感じます。

 

 

 

 実は、人間は、ホルモンが正常に働いていると代謝の機能で、身体も心はどんどんと更新されていきます。記憶も処理されて過去のものとなっていきます。それは、単に薄れていく、といったことではなく、あり方自体が変わっていくような感覚。


 普通の人は、失敗やミスがあっても、数日、どんなに長くても3年程度で更新(アップデート処理)されてチャラになっていきます。
 人間関係の貸し借りもそうです。チャラになっていくのです。

 

 
 ずっと長く恨んだり、悩んだり、ということはトラウマティックで、異常な事態です。

 

 

 
 トラウマを負った人の記憶は更新されず、無限性をもたされて、そのなかで罪や恥の感覚に苦しみ続けます。

 でも、時間の見え方は、ループするというよりも、直線状にずーっと続いている感覚。なぜ直線状になって見えるかといえば、更新されて消えないからです。更新されれば、直線は非連続になるのです。

 

 トラウマを負った人は、自分には代謝(更新処理)がなく、ずっと若い、幼いままである、という感覚があります。

 

 

 一方、普通の人は、逆に更新されて有限で、時間は直線ではなくて、点として感じられる。なぜなら、過去は処理、更新されるから。カウンセリングで理想の状態である「今・ここ」という感覚を体感しています。

 時間の感覚が全く異なります。

※前近代の日本人は、正月が来ると歳がリセットされる、といった感覚だったそうです。直線で時間が続いているというよりも環やらせんになっているような感覚。
現代人よりも、「今・ここ」という感覚に近いかもしれません

 

 

 冒頭の旧交や、同窓会の例でも、同じペースで更新処理されている者同士であれば、同じ経験を共有できるのです。

「懐かし~!」と言い合えるのです。

 

 ご近所同士や職場や知り合いとの会話も、同じペースで更新しあえれば、やり取りはスムーズにいきます。

 でも、トラウマを負った人は更新処理されていないままで、ペースがずれるため、他者と通じ合えず違和感を強く感じてしまうのです。

 

 

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

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トラウマの世界観は”無限”、普通の世界観は”有限”

 

 

 トラウマを負った人の世界観として特徴なのは、無限で終わりがない、ということです。

例えば、
・悲しみには終わりがない。
・むなしさには終わりがない。
・ぬぐい切れない罪悪感。
・一度ミスをすると申し訳なさが、ずーっと続く。
・過去が恥ずかしい。
・アルコールを飲み始めたら、止まらない。
・お金を使い始めたら止まらない

などなど
悪いことや罪悪感が、ずーっと永遠に続くような感覚があるのです。でも、未来には不安があります。信頼はできていません。信頼はできていないから、不安やみにくい自分の欲は永遠に同じように続くような感覚があります。

 

 

 

一方で、普通の人の世界観は有限(諸行無常)です。

簡単に言えば、「飽きる」「終わりがある」「真ん中に戻る」といったことです。

 

例えば、
・感情を出しても、しばらくしたら元に戻る。
・盛り上がるポイントと、平静になるポイントのメリハリが自然についている。
・対人関係でも過度に恐縮しない、過度に偉そうにならない。
・自分の責任ではないことは自分が悪いとは思わない。
・失敗をしても、一定の時間が過ぎたらチャラになる。
・貸し借りで常に収支のバランスが0になる。
・食事をしたら、おなかがいっぱいになる。

などなど

 

 当たり前かもしれませんが、ガッと盛り上がっても、すぐに収まるし、やりすぎたら飽きるし、欲が満たされたら興味がなくなるし、悩んでいても一定の時間が過ぎたら悩まなくなる。

 

 また、時間がたったら必要な感情や欲が適度にわいてくる。未来への不安はあまりありません。漠然とした信頼感があります。また再び喜びも悲しさも適度に反復することを知っているからです。

 

 
 身体的に言えば、ホルモンが適切に働き、体内のバランスを取れる状態にあるかないか、にあります。トラウマを負うと、とくにコルチゾールなどのバランスが崩れます。
そのため、緊張しなくていいところで緊張しすぎたり、普通の人とは逆に働くようになります。


 その結果、世界観としては、不快な感じが永遠に続くような、それでいて未来は信頼できない、そんな不安があるのです。これが“生きづらさ”につながってきます。

 
 ※本来は、社会通念上、逆境とされる環境にはない人でも、身体的な不調でホルモンのバランスが崩れていたり、発達障害等がある方は、結果的にトラウマを負った人と同じような世界観になることがあります。なんでもないことがストレス(トラウマ)として感じられたり、生きづらさを感じたり、記憶が誤って残ったり、ということが起こります。

 

 

 仏陀が中道といいましたが、それはもしかしたら特別なことではなく人間にとって自然にバランスがとれている状態のことを指していて、煩悩というのは、トラウマなどからくる終わりなき不自然な悩みや欲(依存症のような)を指しているのかもしれません。

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

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トラウマを特定する必要はない。

 

 クライアントさんの多くがご質問されることに、
「私のトラウマは見つかるものでしょうか?」
「何がトラウマかわかるものでしょうか?」
ということです。

誰もが気になるところです。

 

 

 前回の記事にも書きましたが、
トラウマの多くは、長期間のストレスによるものです。

 そのため、多くの方がイメージされるように、ドラマチックな一回のイベントによって、というよりも、長くストレスがかかったために、理不尽さを記憶として処理できなくなっているケースが多いです。

 

 こうしたトラウマの特徴について、理解を深める必要があります。

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 
 さらに、過誤記憶(フォルスメモリー)の問題もあります。本人は過去の虐待があった、自分の周りはひどい人たちばっかりだ、と考えていますが、実はそれは記憶の誤りであった、ということです。

 これは発達障害傾向の方に多く、甲状腺疾患などのホルモンの問題によっても生じます。

 

 敏感性を持っていることや、記憶がシャッフルされやすいために、体に触れられたり、大きな声を聴いたり、といったちょっとしたストレスも虐待として記憶されてしまうのです。

これは、決して珍しいものではありません。

 

 

 

 よく犯罪の目撃証言などの記憶の実験でも、「確かに、私はこの人を目撃した」といっても、実はそれは実験上のひっかけでした、というものがあります。本人は確信していますが、記憶というのはかなりあやふやなものなのです。

 

 
 診療やカウンセリングでもこうしたことは起こります。

 ラポールも取れて良い感じで終わった、と思っていたら、
翌日クレームが来て、「医師やカウンセラーにひどいことを言われた」と訴えて、医師やカウンセラーが驚く、ということがあります。

 本人にとってちょっとした刺激がトリガーになって、記憶が飛んだり、間違えて解釈されたりといったことが起きるのです。

 

 これが何十年も前の家庭内のことですから、なおさらのことです。記憶の保証はありません。

 

 
 それを超えて、客観的にトラウマを特定しようとして、
例えば、催眠や筋反射テストなどをしてみれば、理屈上はできなくはありませんが、それらしい答えが出たとしても、それが本当か、答え合わせをするすべがないのです。

 

 また、繰り返しになりますが、トラウマの多くが長期間のストレスによるものですから、特定することも難しかったりします。

 
 こうしたことから、実はトラウマケアを行う上でトラウマをピンポイントで特定する必要性はなく、その人にとって生きてきた中でストレスに感じられてきたものを伺って、現在困っている症状にアプローチしていったほうが結局は速く良くなっていきます。

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

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