“作られた現実”を分解する。

 

 

「物理的な現実に根ざす必要がある」と聞くと、
「いま、ハラスメントにあっている自分というのは現実なんです」「今まで失敗を繰り返してきたのは現実なんです」「だめな自分は現実なんです」
ということが頭に浮かんでくる方がいらっしゃいます。どうしても、目の前にあるものが現実に見えると。

 

 

 まず結論から言えば、それは、ローカルルールによって“作られた現実”ということになります。

(参考)→「ローカルルールとは何か?」 

 

 

 ローカルルールは、現実というものを歪曲したり、不利な環境から現実を作り出したりします。今ある状態が現実であると真に受けさせられて、ローカルルールが維持されてしまうことになります。

(参考)→「ローカルルール人格が感情や記憶を歪める理由

 

 

 そのため“現実”とは何か?について整理しておく必要があります。

 まず“現実”とは、今ある「状態」のことではありません。

 社会において、今ある「状態」とは、多くの場合、時間の経過を経て、作り出されているものです。

 

 例えば、アメリカ社会において黒人は白人に比して、犯罪率が高かったり、所得も低かったりすることが知られていますが、それをもって、「黒人は白人よりも劣っている」と考える人がいれば、それが誤りであることは明らかです。

 

 「でも、個人が頑張ればいいじゃない」「機会の平等があるのに犯罪率が高かったり、所得も低いのはやはり努力が足りないのでは?」という考えが出てきますが、人間というのは環境によって成り立っている生き物です。環境のサポートがなければ社会的な成功もおぼつかないのです。

 

 個人の意欲や努力でさえ環境の支えによって生み出されるものなのです。
 実際、日本でも、東大に進学する人の家庭の所得はそうではない人と比べると高いことが知られています。

 差別されてきた人々にとっては、経済的な環境だけではなく、社会からの視線もハンデとなります。

 
 そうした諸々の影響の結果、道徳の荒廃などがうまれて犯罪率の高さにつながったり、所得の低さなどに影響するのです。

 その「状態」は物理的な現実か?といえば、違います。

 

 「物理的な現実」は、どこまでいっても「黒人も白人も、基本的に人間の能力に差はない」ということです。

 歴史的に社会的に形成されてきた「今ある状態」が「変わらぬ本質」であると思わせることもローカルルールだということです。

 

 

 私たち個人でも同様です。
 環境が整っていなければ、成功することはできませんし、否定的な認知にさらされ内面化されていれば、パフォーマンスは下がります。

 

 社会心理学では、「ピグマリオン効果」ということが知られています。

 実験で、教師が、本当は違いがない2つのクラスにおいて、「このクラスの子は優秀だ」「このクラスの子は問題児たちだ」と事前に伝えられて授業に臨んでいると、実際に伝えられたとおりに、優秀だと知らされていたクラスは優秀になり、劣っていると知らされていたクラスは成績も下がってしまうのです。

 これも、“作られた現実”です。

 
 「物理的な現実」は、「どちらのクラスも差がない」のですから。

 

 

 でも、目の前の状態を変わらぬ本質だと思わされてしまうと、「ほら、事実、テストの点数に現れているじゃないですか?!彼らは成績が悪い子達なのです」という人がいたら、その人はやはり間違っているのです。

 

 

  調査などで、集めた資料がすべて「証拠」では無いことと同様です。分析され、選別されたものだけが「証拠」です。
 

 しかし、私たちは今ある状況を「証拠」だという人によって振り回されることがある。「実際に、あなたはできていないじゃない」「実際に、失敗してきたじゃない」といったような発言に。

  
 親が不全感から、「あなたはだめな子だ」「あなたは気が利かない」「だめなお父さんにそっくりだ」などと子どもに伝えていれば、子どもはそのようになりますし、自信のなさから失敗を繰り返してしまうことになります。

 これは、人為的に作られた「状態」であって、「物理的な現実」ではありません。
 

 
 「物理的な現実に根ざす」とは、「今ある状態」について真に受けず、時間を巻き戻すようにして、ローカルルールによって形成する過程や、構成している環境を分解していくことです。

 不安、恐怖、罪悪感、劣等感と言った感情もまとわりついていますから、それも拭う必要があります。

 そうした作られた現実を剥ぎ取った先に「物理的な現実」が見えてきます。

 

 

 そのためには、普段使う「言葉」に注意する必要があります。
 安易に「現実」とよんでいると混乱させられて、ローカルルール人格にうまく利用されています。

 まず、今目の前にある現実については、「状態」「状況」と呼びます。

 過去についても、「過去の状況」と呼びます。

 そして、今ある「状態、状況」とは、歴史的、社会的に構成作られたものだ(作られた現実)と知り、
巻き戻して、分解した先にあるものだけを「(物理的な)現実」とするのです。

 

 「今ある状態、状況」=(物理的な現実+ローカルルール+否定的な感情+俗な知識+過去の記憶+取り巻く環境 など)

 といったように。
 

 

 「物理的な現実」がわかれば、ローカルルールに対抗できる足場ができます。

 

 

(参考)→「ローカルルールとは何か?」 

 

 

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「物理的な現実」に根ざす

 

 ローカルルールとは、その正体は個人の私的な感情にすぎないわけで、そこで主張されることはもっともらしく見えても、なんら現実に基づくではありません。

基本的に虚構、想像の世界に巻き込むことで成立しています。

(参考)→「ローカルルールとは何か?」 

 

 

 私たちが、「人からどう言われるか?」「どう見えているか?」を過剰に気にさせられるのもローカルルールの影響の故です。

 

 「人からどう言われるか?」「どう見えているか?」というときの「自分」とは、物理的な自分ではなく、イメージ(虚構)の世界の「自分」です。

 例えば、「~さんって、暗いね」と人から言われたとしても、それは、物理的な自分をさしているわけでもなんでもなく、単に、それを発した人の考え、言葉(イメージ)のものでしかない。

 

 

 しかし、ローカルルールはイメージがあたかも現実であるかのように思わせて私たちを苦しめます。

 一番の方法は、「人の言葉は大切に聞かなければならない」とか「人の気持ちを考えなければならない」といったニセの常識を刷り込むこと。

(参考)→「変な設定のスマートフォン

 そうすることでローカルルールが作り出す虚構の世界に巻き込む下地を作る。

 

 

 次に、「あなたは価値がない」とか「あなたはダメだ」といったこと(ローカルルール)を刷り込む。

 下地として「言葉は大切だ」と思わせていますから、暴言が土に染み込むように浸透して、巻き込まれていきます。

  

 「あなたは価値がない」もイメージ(虚構)でしかありませんが、「言葉は事実だ」と思っていますから、それ自体が事実であるかのように私たちには感じられ、以降、「自分は価値がない」という情報を証拠して集めるようになってしまいます。

 相手がそっけない態度を取ると、「自分に価値がないからだ」と捉えてしまう。

 

 「自分には価値がない」と思って自身がないものですから、社会に出てからも他者のローカルルールに巻き込まれやすくなり、不全感を抱えた人から、「あなたは価値がない」というフィッシングメールを受けて、真に受けてしまう。

(参考)→「ローカルルールの巻き込みは、フィッシングメールに似ている

 

 不全感を抱えた人にとっては、巻き込まれて嬉しいので、「価値がない」ということが事実というふりをされて、マウンティングされてしまう。

 

 

 長年それが続くと、ローカルルールというニセモノに過ぎないものが他のローカルルールも雪だるまのように巻き込みながら膨れ上がり、現実であるかのように感じさせられてしまう。

そして、「現実とは辛く厳しいところだ」というように感じられてしまう。

 ますます、物理的な現実からは遠ざけて虚構の世界に誘い込まれてしまう。

 
 さらに、ローカルルール「人格」というように、ローカルルールは人格(モジュール)に感染して影響します。ローカルルール人格は、感情や言葉、行動の認知、記憶を歪めます。
 

(参考)→「ローカルルール人格が感情や記憶を歪める理由
 

 歪められることでローカルルールを壊す手がかりが失われ、物理的な現実を私たちが触れることができないように遠ざけてしまうようになるのです。そして、常に証拠のない虚構の世界でやり取りさせることで、ローカルルールから抜けることができないようにするのです。

 

 

 「現実が怖い」「現実は厳しい」「現実を見たくない」というふうに思っているとしたら、それは実はローカルルールによって作られた感覚です。

 そして、その場合に、“現実”と感じていること、例えば、「自分は価値がない」「自分には実力がない」「自分は失敗ばかり」という“現実”とは、作られた虚構の現実であり、本当の現実ではない、ということです。

(参考)→「自分にも問題があるかも、と思わされることも含めてハラスメント(呪縛)は成り立っている。

 

 

 ハラスメント、虐待の影響の一番は、「現実は怖い」と思わせて、私たちを物理的な現実から遠ざけてしまうこと。

 

 以前、「代表」という機能についてもお伝えしましたが、物理的な現実からも離れ、代表も機能せず、中空に浮いた状態。

(参考)→「すべてが戯れ言なら、真実はどこにあるの?~“普遍的な何か”と「代表」という機能

 

 これがいちばんローカルルールとしては個人を支配しやすい状態。
  

  代表
 
   ↑ ※妨げられる

 (中空) → ローカルルールに依存させられる

   ↓ ※妨げられる   

 物理的な現実

 

 中空に浮いているので、反撃のための足場、根拠を持つことができず、ローカルルールは自由にイメージや言説を操ることができる。

 
 物理的な現実というのは、人間の意識では変えることができません。

だからこそ、安全であり、信頼できる。

 
 反対に意識やイメージ、言説というものは、いくらでも加工できてしまう。

そこには、ローカルルールが入り込む余地がたくさんあって、危険極まりない。

  
 「代表」が機能するためには、物理的な現実に足場を保つ必要があります。

 
 世の中には、家のローカルルールから自由にしてあげますよ、といいながら、別のローカルルールへの依存を勧めて商売をしている人たちがたくさんいるからやっかいです。
(自己啓発とかカリスマカウンセラーとか、スピリチュアルなものや宗教など)

(参考)→「ローカルな表ルールしか教えてもらえず、自己啓発、スピリチュアルで迂回する

 

 物理的な現実な現実からも切り離され、ローカルルールにとらわれていてつらい思いをしている人からすれば藁にもすがる思いで頼りたくなります。

 

 しかし、それも結局はローカルルール。
 主宰している人の不全感を満たすために依存しやすい人達を集めているだけ。
 根っこには、自己愛や支配欲でしかないのに、「富」「愛」「夢」「本当の世界」といったきれいな言葉でコーティングしているだけ。

 結局、ローカルルールから別のローカルルールに移っても全く解決にはならない。

 やるべきことは 虚構の“現実”(ローカルルール)から 本来の現実(物理的な現実)へと移ることです。

 決して、虚構の“現実”(ローカルルール) から  別の虚構の“現実”へ 移ることではありません。

 
 ここはとても大事なポイントです。

 

 例えば、自己啓発やスピリチュアルにおいて、「思考は現実化する」といって、願い事を書いたり、アファメーションを唱えたり、といったことは、実は単に、虚構の“現実”(ローカルルール) から  別の虚構の“現実”へ 移ろうとしているだけです。

 それで得をするのは、本やセミナーで商売している元締めの人(ニセのカリスマ)だけです。
  

 
 いわゆるカウンセリングやセラピーにおいても、そのセラピー自体が、虚構から虚構へと操作するようなセラピーであれば、効果はありません。むしろ、ローカルルール世界の中で治療者もともに踊らされてしまうことになります。

 

 やればやるほど、物理的な現実から離れることになり、ローカルルールにとっては都合が良い。イメージ(虚構)の世界の中でのやり取りなので、ローカルルールそのものを壊すことにならない。
 下手をすると、ローカルルールの維持に協力してしまうことになる。

 

 例えば、認知(信念)を変えるセラピーなどもある程度良くはなりますが、ローカルルールが許す範囲になってしまうのです。

 

 ローカルルールとは所詮、個人の私的な感情にすぎません。ニセモノです。魔女のりんごのようなもの。物理的な現実を突きつければ、あっという間に消え去ってしまうものです。

 本当であれば、物理的な現実に根ざして関わればなんでもないことです。

 

 本当に悩みから抜けるためには、考え方を変えるとか、イメージを何とかする、といったことではまったくだめで、物理的現実に根ざして、ローカルルールそのものをひっくり返しに行く必要があります。

 睡眠、食事、運動が大切なのも身体という一番身近な物理的現実に根ざすことができるようにするため。

 釈迦も苦行を否定したのは、身体を保って物理的な現実に根ざしていないといけないから。
 仏教の悟りとは、観念を排して徹底的に物理的な現実を見る、というものです。
(参考)→「結局のところ、セラピー、カウンセリングもいいけど、睡眠、食事、運動、環境が“とても”大切」 

 

 また、仕事などを通じて、社会の中で「位置と役割」を持つことが大切なのも、物理的な現実に根ざすためです。

(参考)→「「仕事」や「会社」の本来の意味とは?~機能する仕事や会社は「支配」の防波堤となる。」 

 

 

 例えば、「自分はダメな人間だ」と親に思わされてきた人が、努力して「親から評価されよう」あるいは、「自分の考えを変えて自己肯定感を高めよう」と思うのは、ローカルルールの虚構世界の中で踊っているだけです。

 

「自分はダメな人間だ」と思う気持ち(信念)を、セラピーで変えようとすることもローカルルールの世界で踊っていることです。

 

 そうではなくて、そもそも「自分はダメな人間だ」というのはローカルルール(虚構)であることに気づき、「いいかげんにしろ!」と、ローカルルール自体をベリッと剥がしてしまう。

 そして、物理的な現実を見る、ということ。

 ここがすごく大きなポイントになります。

 

 

 そこに至るためには、数々のトラップが仕掛けられています。

 ・言葉を大切にしなきゃ、相手のぞき込まなきゃ、というローカルルール

 ・刷り込まれ、内面化してきたローカルルール

 ・虚構によって作られた“現実” 
  (例えば、ローカルルールを真に受けたことで生じた過去の数々の失敗など)
 
 ・身体の不安定さ
  (睡眠不足、運動不足、栄養不足)

 ・不安、恐怖、罪悪感

 ・自他の区別の弱さ

 ・巻き込まれる癖

 ・ニセの敵への執着(目の前の人にイライラして、本来の問題に目が向かない)
  
 ・秘密を抱え込んでいる(ファミリー・シークレット)

 ・物理的な現実への幻滅や大人への反感、理想主義

 ・俗な知識
  エセ科学(ニセの脳科学など)、ポップ心理学やスピリチュアルなどが広めた間違った知識(考え方を変えれば悩みは治る、共感が大切など)
  これもローカルルールそのものにアプローチできずにローカルルール内で踊らされる要因になります。

 などなど

 

 

 これらが邪魔をして、「物理的な現実を見たくない」「物理的な現実を見れない」になっている。

 

 でも、本来は物理的な現実のほうがローカルルールによる虚構の現実よりも圧倒的に優しいし、多元的多層的です。

 本当の解決には必ず物理的な現実に根ざす必要があります。
物理的な現実に根ざすと、ローカルルールは取れやすくなります。 

 

 

 難しいことはさておき、

 まずは、自分がもっているネガティブな感覚を「これってローカルルールじゃないか?」「ローカルルール人格のもので、自分のものではないのでは?」
 と疑ってみることです。

 

 まちがっても、ローカルルールにたいして、ポジティブ思考、自己啓発、ポップ心理学(俗な心理学)などの虚構で対抗しようとしない。虚構の世界で虚構同士でやり取りをしても巻き込まれるだけですから。

 そして、「物理的な現実を見る」と決めて、心がけてみることです。

 ここはとっても大切なポイントです。

 

 

(参考)→「ローカルルールとは何か?」 

 

 

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「ポリス的動物(社会的動物)」としての性質を悪用される

 

 

 前回の記事で少し触れましたが、人間は、「ポリス的動物(社会的動物)」と呼ばれています。

 わたしたちは、規範(ルール)を求め、秩序を欲しています。
自然と、ルールに従おう、そしてネットワークにつながろうとする性質があります。

 ローカルルールとは、その性質を悪用したものです。

(参考)→「ローカルルールとは何か?」 

 

 わたしたちは、「これはルールだ」「常識だ」という言葉にとても弱くできている。   

 ハラスメントを行う側も社会的であり、単に理不尽に振る舞いたくない、わけがわからない行動は取りたくないと感じているため、自分の私的情動に対して、「これは常識なのだ」と騙ろうとする。

 

「これは嫉妬なんです」とか、「これは私の不全感の表明です」と正直に言ってくれればこちらも影響されずに住むのですが、面倒なことに「これは仲間内の常識なんです」「あなたのせいなんです」と正当化の理屈をかぶせてくるから厄介です。

 そして、「私の心の中を覗きなさい」と変なネットワークに巻き込もうとフィッシングメールを送ってきたりもする。

(参考)→「ローカルルールの巻き込みは、フィッシングメールに似ている

 

 私たちの身近には、このようなローカルルールがウヨウヨとはびこっています。

 

 
 では、「世の中はローカルルールに支配される暗黒社会だ。」「ローカルルールだらけでは何も信用できない」というわけではありません。

 「パブリックルール(グローバルなルール)」という大きな川が流れており、“普遍的な何か”、物理的な現実というのは確実に存在しています。

(参考)→「常識、社会通念とつながる

 

 人類の営みは、“普遍的な何か”を代表させようとする努力の歴史でもあります。

 昔、中国の皇帝も、自身の即位の根拠は「天命を受けた」ということですが、つまり“普遍的な何か”(天命)を代表している、ということ。皇帝だから何でもできるわけではなく、“普遍的な何か”(天命)を代表していることを示し続けなければならないし、それに反したことはできない。

 

 代表できなくなったり、ローカルルールで統治していると、そのうち革命が起きて、王朝が交代する、ということになる。

 

 私たち現代日本も取り入れている民主主義も、選挙や世論調査を通じて、不完全ながら、“普遍的な何か”を代表させようとしています。“普遍的な何か”をルソーは天命ではなく、「一般意志」と呼んでいる。

(参考)→「すべてが戯れ言なら、真実はどこにあるの?~“普遍的な何か”と「代表」という機能

 

 わたしたち個人も、そうした“普遍的な何か”を代表する、自然に感じ取る力があります。それが「直感」と呼ばれたり、「ガットフィーリング」と呼ばれたりする、身体で感じる感覚です。

(参考)→「頭ではなく、腸で感じ取る。

 特別なことではなく、わたしたちは誰でも感じています。

 

 
 トラウマを負うというのはローカルルールの呪縛によって、焦燥感や、不安感、体調不良から、そうした身体感覚を邪魔されている状態のことを言います。

 
 身体感覚が撹乱された状態で、ポリス的動物の特徴である、「ルールに従う」「ネットワークに繋がる」ということをうまく利用されて、「ローカルルール」という“ニセの何か”に従わされてしまう。

 

 ポリス的動物であるわたしたちからすれば、「ルールがないくらいなら、ニセモノでもルールがほしい」と思わされてしまうのです。
 

 さらに、ルールとは単に頭に知識として入るのではなく、人格レベルで内面化されるものです。

 人格レベルで内面化とは、「まさにそのものになるようにして、受け入れる」ということです。

 ですから、刺激を受けると「(人が変わったように)ルールに従わない人を非難したりする」のです。

 これは、人格がスイッチしているということです。

 

 

 人格というのは、スマホに例えればアプリのことです。 スマホは物理的には1台でも、アプリ(プログラム)は複数入っていますが、そうした構造に人間もなっていると考えられます。

(参考)→「変な設定のスマートフォン

 

 

 ただし、解離性同一性障害(多重人格)でなければ、人間には人格を統合しているという感覚(錯覚)が働いていますから、「ローカルルール人格の言動も自分のものだ」と思わされていますし、別人格だとは感じることが難しいのです。

(参考)→「解離性障害とは何か?本当の原因と治療のために大切な8つのこと

 この「ローカルルール」そして「人格」という発見の意味はとても大きいと感じています。

 

 

 例えば、これまでセラピーを受けても、何をしても、自分の自信のなさや、自己否定感がどうしても拭えなかったという方はとても多い。

 しかし、「ローカルルール」という観点をもつと、自分が信じてきたことがいかにおかしな仮想の世界でしかなかったのか根本からわかるようになる。

 それらにはなんにも根拠がなく、単なる他者の私的情動でしかなかった、ということ。

(参考)→「ローカルルールとは何か?」 

 

 いままでは、すごいと思っていた人たちが、解離しやすいおサルさんでしかないこと。人間には、人格というものがあって、スイッチしている、ということ。どんな立派な人でも解離してしまう。

 そのため、私的環境での発言はすべてが戯れ言でしか無い、ということ。

 こうした事がわかってくると、これまで苦しんできた世界がかなり変わってくる。

 筆者も自分で自分にやってみても、従来のトラウマケアだと動かなかった自分の悩みも変化していく感覚があったりします。
 

 

 例えば、発達障害、といったような人たちは、「暗示にかかりやすい」「真面目さ」「言葉を真に受けやすい」ということが挙げられています。ローカルルールの特徴からすれば、ローカルルールにもっとも影響されやすい人たちであると言えます。

 発達障害の方の生きづらさや、問題を引き起こす認知も、じつはローカルルール人格のもので、それに気がついた途端に軽快した、というケースも実際にあります。それまではどうしても否定的な認知が拭えなかったものがガラッと変わったりする。

(参考)→「大人の発達障害、アスペルガー障害の本当の原因と特徴

 

 「ローカルルール」というのは、おそらく、健全な発達の過程では反抗期などを経て自然となされる人間へのイメージや規範の相対化をあとからでも促してくれる視点なのだと思います。

 「ルール」と「ネットワーク」という「ポリス的動物(社会的動物)」の性質を悪用され、拭えない強い呪縛を解きほぐしてくれる。

 

 人間は成長する過程で社会の規範、常識というものを、ローカルルールなポイントを通じてインストールされるわけですが、そのローカルなポイントが不全感を抱えていた場合は、おかしな設定(ローカルルール)が紛れ込む。

 

 発達の過程でそうしたことを一旦否定して、「人間ってみんな限界があって等身大で、個人的な感情で動いていて、言っていることも戯言に過ぎない」と体感してくるわけですが、それがうまく得られない場合には、ローカルルールに長く呪縛されることになります。

 

 従来のカウンセリングだと、ローカルルールをそのままにしておいて、あるいは、ローカルルール人格が訴えることに治療者も真に受けさせられ、共感させられて、ローカルルールの枠を超えることができないままにさせられることも多かったのかもしれません。

 ローカルルールがそのままになった上で、認知なり、感情なり、トラウマなりを扱おうとしているのでうまくいかなくなかったのかもしれない。

 さらに、「人格」という視点も重要で、人格が変わると体質も変わるということが知られています。(F・パトナム他「多重人格障害-その精神生理学的研究」(春秋社)

 内的に複数の人格(脳科学ではモジュール、作家の平野啓一郎さんは分人と呼んでいますが)が存在するのだ、と認めて捉える。

(参考)→「ローカルルール人格って本当にいるの?」 

 

 昔漫画で、ニセの世界に誘い込んで主人公を出れなくしたり、人格や体質をいろいろと変えることで主人公の攻撃を無化したりみたいな敵が登場することがありました。ニセの世界と気が付かずに「こっちのほうがいい」と惑わされたり、効くはずの攻撃が効かずにピンチになったり。

 

 しかし、最後は、ニセの世界などの正体を見破ることで敵を撃破する、といったストーリーだったかと思いますが、「ローカルルール(人格)」という視点でセッションをしていると、そんな感覚、手応えを感じることがあります。

 

 

(参考)→「ローカルルールとは何か?」 

 

 

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意味深というのは、ローカルルールに巻き込むための方策

 

 「大切なものは目に見えないんだよ」

 

 という台詞で有名な「星の王子さま」です。

 素敵な童話というように考えられてきましたが、東大の安冨歩教授によると、これは、モラルハラスメントについて書かれた作品だ、といわれています。 

 
 王子さまはバラとかキツネとか、出会うキャラクターたちの意味深な発言に混乱させられ、罪悪感を植え付けられて、徐々に支配されていくさまが描かれています。

 「ハラスメント被害者の物語」というのが、「星の王子さま」の別の姿です。

 

 「大切なものは目に見えないんだよ」というのは、一般には素敵なセリフとして紹介されていますが、とんでもない。その逆で、意味深さで王子さまを縛る呪い言葉だったのです。

 

 
 私たちも星の王子さまのように、ハラスメントの呪縛にかかって苦しんでいるのですが、その中でも厄介なのは、身近な人が発する意味深な発言です。

 意味深な発言というのが、さながら、コンピュータに演算不能な関数を打ち込んでダウンさせてしまうように頭をぐるぐるとさせて、私たちを縛り続けてしまうのです。

 

 世の中には、意味深なことを言ったりする人は少なくありません。

 予言めいたことを言う人もいます。

 「あなたは将来こうなる」とか。

 

 特に家族は厄介で、家族からの意味深な言葉がずっと残っていて、クライアントさんを縛っていることがよくある。

 

 実は単に、ローカルルール人格が発した世迷い言でしかないのに。

(参考)→「共感してはいけない?!

 

 

 現代は人間が理性的な存在である、という前提があるために、私的環境においては、人間が日常的におかしくなるのだ、ということが忘れられている。
おかしくなるというのは、よほどの酩酊、錯乱状態のときだけとされている。

(参考)「関係」の基礎2~公私の区別があいまいになると人はおかしくなる

 その為、日常で発せられる意味のない意味深な発言を真に受けさせられている。

 

 実際はそんなことはなく、
 たとえ地位のある人の言葉でさえ、日常においては戯れ(戯言)でしかなく意味などない。
 

 それなのに、なぜ意味があるように聞こえるかといえば、ローカルルール人格というのは、“神化”しているから。

 

 ニセ神様のようになってしまっていて、あたかも自分がすべてを知っていて、相手を支配する力があると錯覚した存在だから。
 ただ、認識できる範囲は狭いので、具体的に言うことができない。独自の不思議世界の中にいる。そうしたこともあって“意味深な”発言となってしまうのです。

 

 

 一方、真に受ける側の事情もあります。
 

 長い間、理不尽なストレス環境にあると、安心安全がないために物理的な現実を信頼することができない。世の中というのは理不尽に突然襲ってくるものだ、という感覚があります。
 
 また、あまりにも現実がうまくいかないために、それらを迂回したり、寄る辺を求めるためにスピリチュアルなものに対しても親和性を持ってしまうことがある。

 さらには、トラウマを負った人というのはいつも深刻なのです。リラック史できず過緊張でガチガチです。そのため、真に受けなくても良いことまで深刻に受け取ってしまう。

 すると、意味深な言動というものが何やら聞く必要のあるかのように感じられてしまい、真に受けてしまうようになる。

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

 相手が意味深なことをいうときは、ローカルルール人格にスイッチしているのですが、実際の治療現場でも意味深発言というのは起こります。

 

 あるセッションで、クライアントさんが“本音”を吐露し始めました。
 幼いことからのこと、治療者への要望や陰性感情などもふくめて、とっても意味深な内容で、治療者としてはなんとか話に耳を傾けて理解しようとします。特に要望は聞かなければとがんばります。

 なんとか、こういうことかな?と意味がわからない部分がありながらも懸命に受け止めた、と思って、セッションが終わりました。

後日、しばらくして何回かあとのセッションの機会で、

 「あのときのことは実は、治療者を巻き込もうとしてやっていたことだったとおもいます」

 とそのクライアントさんがおっしゃったそうです。

 「あれは本当はそうは思っていませんでした」と。

 

 治療者は驚きました。

 「ええ~!一生懸命聞いていたあれは何だったの?」

 やっぱり、人格ってスイッチするし、意味深な発言っていうのは意味がないんだ、ということを示す出来事です。

 

 

 要は、「意味深」というのも、巻き込むための方策でしかないことをあらためて教えられるエピソードです。

 

 

 「ドクターハウス」というアメリカの医療ドラマがありますが、その主人公の口癖は、「患者はウソをつく」といいます。

 

 さすがに、「治療者が患者さんの話を嘘と思って聞いてはまずいでしょう」「そんなひどい治療者にはなりたくない」と思ってしまいますが、「私はクライアントさんのすべてを受け止めます」とやっているとでも、はじめのうちは良いのですが、しばらくすると本当にやられてしまいます。ある日ひどいクレームにさらされて、治療者を辞めないといないところまで精神的に追い込まれます。

 これは、カウンセラーなどの治療者あるあるですね。

 

 ベテランの治療者はそのことを知っていて、うまく流して本質を捉えようとします。特に依存症などを扱う(依存症は人格が顕著に変わる症状です)医師やカウンセラーなどは、真に受けないように、巻き込まれないようにトレーニングをされているそうです。

 

 ドクターハウスの主人公は、要は「本質に目を向けろ」といっているわけです。人間というのは弱い生き物でいろいろな事情を抱えていて本当のことが言えない場合もあるし、人格もスイッチするから真に受けていたら二進も三進もいかなくなる。

 
 カウンセリングでも同様に、クライアントさんの本来の人格の言葉を聞くためには、表面的な言動に惑わされてはいけないし、その奥にあるものを捉えないといけない、ということになります。

 

 治療場面だけが特別ではなく、私たちは日常でもにとってもこうしたことはしばしば接します。特に親族、友人、知人、会社の上司、意味深発言、というのはまともに聞いてはいけない。

 スルーするか、「なにうさん臭いこと、いってるねん!」と突っ込み返さないといけない。相手は神様ではなく人間なんですから、分をわきまえない意味深な言葉なんて発する力ありませんから。

 

 実際に、よくあるお笑い芸人の漫談で、すごく伝統や権威のある、と思っていた人とか占い師めいた人の話を真剣に聞いていたら、ただのおじいさんだったとか、実はそうじゃなかった、いい加減だった、みたいな笑いばなしがありますが、まさにそんな感じ。

 

 

 人間の言葉は本当に意味がない。
言葉が意味を持つのは公的環境においてのみです。

 

 特に意味深発言は耳を傾けてはいけません。意味を考えてはいけません。前回の記事でも書きましたが、日常の会話というのは戯れとして流していくものなのです。

(参考)人の話をよく聞いてはいけない~日常の会話とは“戯れ”である。

 

 

 

(参考)→「ローカルルールとは何か?」 

 

 

 

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