「私(自分)」がない!

 

 結局のところ、トラウマを負うというのは、「自分(私)」を奪われることです。

「私」というものがなくなってしまう。

 
 「自分(私)がない」というと、多くの人はピンとこないと思います。

 「本当にそうかな~?」と。
 

 なぜかといえば、トラウマを負っている人は突破力や行動力はあったりするからです。

 他者よりも気を使い、努力家で、たくさん行動していたりする。

 だから、自分の頭で考えているし、自分で行動していると思っている。

 しかし、それは、他者の気持ちに巻き込まれているだけだったり、ローカルルールによって強迫的に動かされているだけだったりする。

 もっと言えば、「行動」という側(ガワ)だけがあって、「私」という中身がない状態だったりする。

 実際に、いざなにか決断とか選択となると、途端にうまくできなくなったり、自分の感覚がわからない、となったりするのです。
 

 また、以前も書きましたが、「行動力」はありますが、自己開示は全くできていなかったりする。

(参考)→「自己開示できない!

 

 話し方も、「私は~」がない。事象や他者のことは語ることができますが、「私」については魔法がかかったように語ることができない。

 本人は「語っていると思うけどな・・」と思うか、自覚したとしても「語る必要がないんだから語らないだけ」という感覚なのですが、やはり真相は自分を奪われているからであることが多い。

 

 色々と頑張ってきたけども、肝心の「私」というのものは、魔女の魔法のガラスの中に閉じ込められてしまったかのように奪われてしまっているのです。

 そして、「理屈(他者の価値観≒ローカルルール)」の世界に生きてしまっている。

(参考)→「「理屈」をつけるとローカルルールに支配される~「認知」と「思考」も分けて、さらに自他の区別をつけるトレーニング

 

 
 そこで主権を奪われて、セラピーを受けたとしても、自分ではないものの悩みをテーマで取り上げたりしてしまったりします。

 実際に、不思議なことに何回もセッションを受けてから、ようやく「私の問題」を俎上に載せる事ができるようになるケースもあります。

 それも、いかにローカルルールの影響が強いか、私が奪われてしまっているか、を表しています。

 

 

 

(参考)→「ローカルルールとは何か?」 

 

 

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お悩みの原因や解決方法について

あらためて、「運動」はとても大切

 

 新型コロナウイルスの自粛の影響もあり、生活習慣が乱れてしまったり、特に運動不足が心配されます。

 クライアント様の中にも、あきらかに自粛の影響でうつっぽくなってしまったり、悲観的になって自分で戻せなくなってしまっている方も、散見されました。

 

 以前の記事にも書かせていただきましたが、 
(参考)→「結局のところ、セラピー、カウンセリングもいいけど、睡眠、食事、運動、環境が“とても”大切

 運動、食事、睡眠のいずれかが下がると、心身のコンディションはテキメンに下がります。
(マインドコントロールも運動、食事、睡眠の制限が基本ですから、わたしたちにとってその影響の大きさが伺えます。)

 

 コンディションが下がると、ローカルルールや過去の嫌な記憶といったものにも囚われやすくなります。
 (さらにローカルルール人格にスイッチしていまうと、自分では自分の考えとそうではないものが区別できなくなってしまいます。)

(参考)→「ローカルルール人格って本当にいるの?

 

 

 たまたま、新聞で書籍の広告が目に入ったのですが(「スタンフォード式人生を変える運動の科学」という本)、そこにも、「毎日の平均歩数が「5649歩」を切ると、不安・落ち込みが増大」という言葉がありました。
 

 

 これはそのとおりで、エビデンスでも裏付けられていますが、いわゆるうつ病でも、薬で回復する人は2割程度ですが、週3回20分程度ウォーキングすることで、9割が回復することがわかっています。

 反対に言えば、運動が不足するとうつや不安に簡単に陥ってしまうのが私たち人間の性質であるということです。
 

 自粛とは関係なくても普段、うつとか、不安などを感じたら、セラピーを受けるよりもまず、運動をしてみる。とにかくしっかり寝て、じゃぶじゃぶに栄養を取る。

 

 栄養については、下記のような本を参照ください。

奥平 智之 「マンガでわかる ココロの不調回復 食べてうつぬけ」

藤川 徳美「うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった

 

 運動については下記のような本があります。

ジョン J. レイティ, エリック ヘイガーマン「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」

 

 宣言も解除されましたので、あらためて「運動」の習慣も戻していきたいところです。

 

 

(参考)→「結局のところ、セラピー、カウンセリングもいいけど、睡眠、食事、運動、環境が“とても”大切

 

 

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お悩みの原因や解決方法について

非愛着的世界観

 

 トラウマを負った人の特徴として、「非愛着的世界観」をもつ、ということがあります。

 

「非愛着的」というのは、簡単に言えば、

 ・自分の周りにはひどい人ばかり

 ・人を信用できない

 ・人に対して敵対的 人を侮る感じ

 ・人は自分をバカにしたり、攻撃してくるものだ

 ・人は狡猾で、自分を支配してくる

 ・人は自分を騙す

 ・人が怖い

 ・世の中は安心安全ではない
 
 といったもので、社会恐怖や対人恐怖が特徴的な世界観です。

 

 これらは、不適切な養育環境やハラスメントの結果として心が歪んでしまった、というふうに考えられてきましたが(もちろんそれもありますが)、最近見えてきたのは、こうした「非愛着的世界観」は親であったりハラスメントを行う人間の価値観を内面化した結果生じているのではないか?(世界観そのものが他者のものではないか)ということです。

(参考)→「内面化した親の価値観の影響

 

 トラウマの結果として人が怖くなってしまったのだと思っていたけども、実は、よくよく分析してみると親自身が人を怖がっていたり、人を信用していなかったりして、そのことが言動の端々に現れていた。
 自分に対して厳しく接してきたのも、実は子どもの自分を怖がっていたり、不信感があったというケースも珍しくありません。

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 それは親(ハラスメントを仕掛けてくる人)が抱える不全感からくるものですが、不全感を「おかしいです」とは自分では認めることは難しいですから、「これが常識だ」「正しい考えだ」とおかしな理屈でコーティングすることになります。それがローカルルールというものです。

(参考)→「ローカルルールとは何か?」 

 

 

 ただ暴力や暴言を浴びせられるだけでは人間はそれほどダメージを負いません(暴力は痛いですけれども)。「くそっ」と反発するだけです。
 

 ハラスメントがやっかいなのは、「自分に非がある」と考え、相手の価値観を内面化させられることです。これがもっとも深いダメージをもたらします。
 内面化した価値観を相対化し、自分の無罪を勝ち取るために、長い長い旅に出かけなければならなくなるのです。

 

 

 内面化した価値観は、その前提となる世界観も含まれます。
 
 相手のおかしなローカルルールを成り立たせるために、その背景となっている「非愛着的世界観」も受け取ってしまうことになります。真面目な子どもは、おかしな親の価値観も一生懸命内面化しようとしてきたというわけです。

 

 
 たとえば職場でも、上司や同僚が狡猾な気がして、自分を利用しようとしてくるように感じる、とか。

 プライベートで出会う人の言動が自分を馬鹿にしているように感じる、とか。

 自分自身もなぜか人に対してイライラしてしまう。 
 その背景には、人を信用していない。世の中には理不尽な人がいて、その人に対する強い侮りや反発心、恐れがあることを感じる、といったこと。  

 

 

 たとえば、自分の状況を説明する仮説も真に受けて、過剰に人を恐れる材料としてしまうこともあります。

 「支配者」という概念などもそうで、自分が相手から否応なくネガティブな意識を流し込まれ、気持ちを覗かれ、コントロールされるかも?という不安をいだいたりしています。
 概念とは、あくまで人間が作り出した仮説であって真実ではありません。解決のための道具がとらわれを生むのでは本末転倒です。

 

 共通するのは、人というのは何やら不気味で恐ろしい存在であると感じているということです。

 

 

 「非愛着的世界観」に影響されていることに気がつけないと、本来であれば切らなくていもいい人間関係まで切らされてしまったり、治療者との関係も断たれてしまったりするなど、本来であれば自分を助けてくれるはずのリソースからも遠ざけられてしまいます。
(参考)→「ローカルルール人格はドロップさせようとすることもある。」「目の前の人への陰性感情(否定的な感情)もローカルルールによるものだった!?

 

 なにより、「非愛着的世界観」が自己成就するかのように、そのとおりの事態を招いてしまいます。
 (例えば、関係念慮のように何気ない仕草を疑ってみたり、不信感を持った態度で接して必要のない反発を招いたり、といった事態)

 

 

 これらのことも、自分の考えでそのように見ている、というよりは、他者の「非愛着的世界観」を内面化した結果として起こっていると捉えると、これまでなかなか拭えなかった対人恐怖や社会恐怖についても解決の糸口が見えてきます。

 

 しつこくつきまとっていた他者への恐れも、実は自分のものではなかった、ということがわかると、細かく自分の症状を解消する、というよりは、世界観そのものを古いカーペットのようにベリッと剥がして巻き取ってしまえばいいという感覚が立ち上がってきます。
  

 
 自分の見ている世界観や人間観そのものが、実はあれだけ反感、軽蔑していた親のものと同じではないか?受け継いでいるのではないか?と分析してみると、悩みを解決するためのとても大きな発見があります。

 

 

 

自己開示できない!

 

 自己開示というのは、トラウマを負っていると結構難しいものです。 
 筆者も昔、「あなたは、全然自分のことを話しませんね」「他人のことばかり話していますね」といわれて、驚いたことがあります。

 自分としては、話しているつもりだったから。

 でも、おそらく、他者についての話題や時事ネタを話しているだけで、自分のことはなにも話していなかったのでしょう。

 もっと言えば、「私は~」(Iメッセージ)とは全く言っていなかったのかもしれません。

 

 それは、自分のことを話すと突っ込まれて嫌な思いをするから、という不安であったり、あるいは、うっかり自分のことを表明すると悪者にされるという恐怖であったり、また、親などのローカルルールを内面化しているために、ただ、「自分の言葉を奪われていた」ためであったりしたのだと思います。

(参考)→「内面化した親の価値観の影響

 

 

 本当は自己開示したほうが「自他の区別」はついて、他者から干渉されない安全が手に入るのに、怖がって、ローカルルールを真に受け続けているために、いつまでたっても安全が手に入らない。

(参考)→「「理屈」をつけるとローカルルールに支配される~「認知」と「思考」も分けて、さらに自他の区別をつけるトレーニング

 

 勇気を出して「自己開示」しても、よくみると、「私は~」になっておらず、いつのまにかローカルルールの理屈を表明しているだけになり、「あなたはきつい」といわれて、傷ついて落ち込んで、「二度と自己開示するもんか」となってしまう。

 自由の手がかりであるはずのものを勘違いして、手放してしまう。

 まるで、アニメや映画で呪いをかけられた主人公のようです。

 

 前回もお伝えしましたが、ほんとうの意味での自己開示と、他者の理屈に影響された言葉とは、似ているようでいて全く異なります。

 ほんとうの意味での自己開示は、「私は~」で始まり、自分の考え、感情から始まっていて自他の区別がついています。

(参考)→「“自分の”感情から始めると「自他の区別」がついてくる

 

 

 一方で、他者の「理屈」に影響された言葉は、「私は~」では始まらず、単に「You’r NOT OK」の表明でしかありません。

(参考)→「ニセの公的領域は敵(You are NOT OK)を必要とする。」「「You are Not OK」 の発作」 

 

 そのため、自己開示ではなく、単に「毒を吐く」ようにしかならない。

 自他の区別がついていないと、自分の感情を発散させているようでいて、結局他者の理屈≒不全感を代わりに吐き出しているようにしかなりません。

 「理屈」がついていますから、その「理屈」によって他者からの干渉を呼び込んでしまうことになります。

 

 

 私たちは思っている以上に、他者の価値観(理屈≒ローカルルール)を直訳して影響を受けています。そして、「私は~」という、自分の言葉を奪われています。

(参考)→「内面化した親の価値観の影響

 

 
 カウンセリングにおいても、極端に言うと、自分の言葉でなければ、たとえばいくらそれをカウンセラーに聞いてもらってもおそらくなんにもなりません。なぜなら、それは「自分の言葉」ではないのですから。

 

 自分はあたかもウイルスに感染したパソコンみたいに踏み台にさせられて、ただ他者の理屈を吐き出さされているだけになってしまっていたりする。

 しかも、まちがって共感されでもしたら、呪いから逃れられにくくなってしまいます。

(参考)→「共感してはいけない?!」 

 なかなか難しいですが、そこに気づいて、呪縛から逃れる必要があります。

 

 

(参考)→「ローカルルールとは何か?」 

 

 

●よろしければ、こちらもご覧ください。

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お悩みの原因や解決方法について