概念が濫用されがちな”生きづらさ”に適切な言葉を与える

 

 現代に生きる私たちは、自分たちの生きづらさを言語化する手段、言葉をずっと探してきた、と言えるかもしれません。

 非常に古くは、生きづらさとはほぼ経済状況を指していましたので、「階級」とか「搾取」とか、「物価」とかそんなものに代表させていた時代もありました。

 
 日本も豊かになってからは、冷静崩壊もあって、大きな物語で生きづらさを代表させることが難しくなってきます。

 私も昔調べたことがありますが、「生きづらさ」という言葉時代が本格的に登場するのは、実は2000年代に入ってからになります。

 確かに、あのオウム真理教事件の際に、高学歴の若者たちが入信していって問題になった際も、なぜカルトにハマってしまったのかを説明するのに「生きづらさ」というワードでは語られていませんでした。

 生きづらさという言葉で語られるのは、少しあとの時代からになります。

(参考)→「あなたが生きづらいのはなぜ?<生きづらさ>の原因と克服

 

 

 本来は、哲学、歴史学とかそうしたものが言葉を当ててくれるはずなのですが、そうした力も失われてしまったために、そこを心理学が埋めるようになります。
 
 心理学は、心理という一見、人間の行動を広範に説明してくれるような印象があることから、哲学や歴史学が後退した空白をなんとなく埋めてくれるような役割を背負わされます。
 (ただ、実際はそんな力は心理学そのものにはありません。むしろ、他の学問よりも歴史も浅く、脆弱とも言えるくらいです。)

 生きづらさを説明するのに、心理学が援用され、生きづらさが”診断名化”していきます。その方の成育歴なども含めて大きく捉えたものではなく、症状のチェックリストから判断されるようなことが生じてしまいます。

 すると、なんでもかんでも、パーソナリティ障害、とされたり、発達障害とされたり、最近であればHSPという言葉が作られたり、と言うかたちで濫用されるようになります。

 

 ただ、それらは一見すると説明がついて安心するけど、現実そのものではありませんから、具体的な解決策にはつながっていかない。
 何かは説明してくれているけど、説明した気になっているだけ、というケースも多くありました。

 

 

 こうした妙な状態は、説明しましたような社会状況からも来ますが、もう一つは、フロイトの時代からの「トラウマ」の研究、臨床が重い足取りで進んできた空白のためでもあります。

 多くの人もご存知のようにトラウマというのは臨床心理の原点ともいうべきテーマです。

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの原因と克服

 しかし、当事者の記憶に頼るような理論構築などから、批判にもさらされやすく、フロイトもその批判に耐えられず方向転換をしたり、虐待やレイプなどへの社会の忌避感も強く、長く陽の目を見ずに来ました。
 
 
  生きづらさを説明する概念として、様々な概念が登場しては消費されてきたのも、本来は、「トラウマ」が埋めるべき広大なスペースが空白のまま残されていたため、とも言えます。

 
 生きづらさを捉えるときに、成育歴から、生理的なものも含めた身体全体、そして、パソコンであればOSに当たるような自己の成り立ち、そしてクラウドとして社会との繋がり、関係、そうした総体をとらえなければなりません。

 
 
 今回2月17日(金)に出版いたします本は、そうした状況に一定の区切りをつけて、トラウマとは一体どういうものか?をわかりやすく整理し、あらゆるケースはまずはトラウマの存在を前提として考えることが、生きづらさといったことへの手当をしていくために大切である、ということをお伝えするような内容になっています。

 

 よろしければ、多くの方にお手にとっていただければと思います。

 

みきいちたろう『発達性トラウマ 「生きづらさ」の正体』(ディスカヴァー携書)

 

●よろしければ、こちらもご覧ください。

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