前回は、ソーシャルワークとは何か、そして、それが生きづらさやトラウマから抜け出すためにとても重要である、ということについてお話ししました。
トラウマというものは、簡単に言えば、親をはじめとする身近な人たちの「おかしな文化」に絡め取られてしまった状態です。
今回は、もう一歩踏み込んで、なぜソーシャルワークがそのような力を持つのか、その効用はどこから生まれるのかについて考えてみたいと思います。
もちろん例外はありますが、多くの場合、発達性トラウマの背景には、そうした文化の影響があります。
しかし、その文化から抜け出すことは容易ではありません。
一見すると、それは正しく見えるからです。
さらに、親への愛着や、「家族は大切にしなければならない」といった表面的な規範にも縛られています。そのため、おかしさを感じながらも、そこから離れることができません。
文化や規範というものは厄介です。
表面的には、本来健全な文化とよく似ています。
どちらも「正しいこと」を言っているように見える。
しかし、その中身や質はまったく異なります。
だからこそ、間違った文化の中にいても、「これでいいのだ」と思ってしまい、その場に居続けてしまうのです。
カウンセリングでは、その絡まった糸を少しずつほどいていきます。
しかし、それだけでは時間がかかるケースも少なくありません。
そこで重要になるのが、ソーシャルワークです。
ソーシャルワークで取り組むことは、とてもベーシックなことです。
お金のこと。 住まいのこと。健康のこと。 食事のこと。
そうした生活の基盤を、一つひとつ常識的な形で整えていく。
一見すると地味な取り組みに見えます。
しかし、実はここに非常に大きな意味があります。
それは、「他人の文化を借りる」ことができるということです。
つまり、自分の中に染みついてしまったローカルルールではなく、健全な文化や常識の上に、自分の足場を置き直すことができるのです。
学問の世界には「巨人の肩の上に立つ」という言葉があります。
ゼロから自分一人で正しい文化や常識を作り上げようとすることは、ほとんど不可能です。
膨大な時間も労力も必要になります。
しかも、自分の中にはこれまで刷り込まれたローカルルールがありますから、それが絶えず邪魔をしてきます。
しかし、健全な文化を持つ人たちの中で生活を整えていくと、その文化を借りることができます。
そうすることで、おかしな文化を少しずつ健全な文化へと置き換えていくことができるのです。
ソーシャルワークの取り組みを続けていくと、ローカルルールは少しずつフィルタリングされていきます。
ある意味では、浄化されていくと言ってもよいでしょう。
そして、その影響は、単に知識を教えてもらうことだけではありません。
もちろん、お金の管理や仕事の探し方など、具体的な知識も大切です。
しかし、それ以上に重要なのは、その場にある非言語的な文化です。
落ち着いた雰囲気。
安心できる関係。
健全な愛着が自然と感じられる空気。
そうしたものは、言葉以上に大きな影響を与えます。
考えてみれば、東洋でも西洋でも、古典と呼ばれるものの多くは、生き方や暮らし方についての教訓集や箴言集です。中国古典もそうですし、イスラム圏やユダヤの伝統にも同じようなものがあります。
それらは単に教義を覚えるためのものではありません。
それぞれの人生の中で、正しさを自分のものにしていく、ソーシャルワークの営みだったと言えるでしょう。
一方で、避けなければならないことがあります。
それは、ソーシャルワークを正しさの正典のようなものとして捉えてしまうことです。
あるいは、誰かが人生を変えてくれる。劇的なファインプレーによって救われる。そのような期待を持ってしまうことも避ける必要があります。
それはソーシャルワークではありません。単なる信仰であり、幻想です。
場合によっては、不安につけ込むビジネスにすぎないこともあります。
だからこそ、大切なのは、健全な文化、常識の中に身を置き、「巨人の肩の上に立つ」ことです。
それこそが、ソーシャルワークの本質であり、生きづらさやトラウマから抜け出すための、大切な土台になるのではないかと思います。
●よろしければ、こちらもご覧ください。
・ブリーフセラピー・カウンセリング・センター公式ホームページ
・みきいちたろう著『プロカウンセラーが教える 他人の言葉をスルーする技術』(フォレスト出版)



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