結局のところ、セラピー、カウンセリングもいいけど、睡眠、食事、運動、環境が“とても”大切

 

 筆者も昔、トラウマからくる生きづらさに悩んでいたころ、例えば、食事とか、睡眠とか、運動とか、そんなことは解決の方法として、全く小バカにしていたように思います。

 「そんな道徳的なことはいいから、もっとすごいセラピーで解決する方法がないのか」と。

 チマチマした感じがしましたし、ほかに手段がないから仕方がなく行うようなもの、ととらえていたように思います。

 

 筆者が、生きづらさで悩んでいた時の生活は、
 朝8時過ぎから夜中0時まで仕事して、お酒を飲んで、4,5時間寝てまた出勤する、というような感じでした。

 

 そんな状態でも生きづらさがなくなりパワフルに働けるようになることが、「治る」ということであり、それを目指して、いろいろなセラピーを学んだり、受けたりしていました。

 

 

 食事とか運動とかを軽視するのは、何も筆者だけではないようで先輩のカウンセラーに話を伺うと、「私も昔は、食事や睡眠なんてバカにしていた」とのことです。

 

 心理療法家の意地としては、そんなことは抜きにして治療したい、というところもあるでしょうし、あと、もう終焉に近づいた(と筆者はみていますが)カウンセリングブームと心理主義の影響もあると思います。

 

 心理主義とは、なんでも「本人の心の問題だ」とする立場のことで、似非科学的で非合理と批判されます。

 

 

 20年ほどカウンセリングに携わってきて、何周もまわっていろいろなことを経験すると、結局、環境からアプローチしたほうが、うまくいく(しないと結局うまくいかない)ことが見えてきます。

 

 私たち人間というのは、環境に左右される生き物です。
環境にはほとんどあらがえない。

 

 例えば、個人の実力の結果とされる「学歴」「スポーツでの実績」といったものでさえ、環境に影響されます。

 

 実際、東大に進学する学生は、世帯収入が高い富裕層が多いそうですし、原動力となる勉強の「やる気」も親戚や周囲に高学歴の人がいたり、教育に関係するモノがあるかどうかなど、環境にかなり影響されます。


 昔から政治家や芸能人には二世、三世が多いですが、それも環境によるものです。

 

 環境の影響を知るために、頭の中で銀河系をイメージしてみます。

 その中の一部に太陽系があって、その中の小さな星が地球です。

 さらに、そこにほこりのように表面にくっついて住んでいるのが私たち人間です。

 そんなちっぽけな人間ですから、当然、気圧から、重力から、気温からも影響を受けています。実際に、季節性のうつや、気圧からの頭痛、体調不良で悩む人もいるわけです。

 

 

 社会、文化、職場、家庭からも影響を受けます。
 業績悪化で職場の雰囲気が悪くなりうつ状態になったことの背景には、グローバル化で海外の経済事情が遠くから影響していることだってあります。

 

 「私は環境なんか跳ね返せる、影響なんて受けていない」という感覚をもし持っている人がいれば、それは、自己愛的な自己誇大化の産物といえます。大変、恥ずかしながら、筆者も若いころは生きづらさへの反発からそう思っていたところがあります。

 

 (「すべては自分の選択だ」という考えも自己啓発やポップ心理学の世界でよく耳にしますが、科学的な心理学の力を借りるまでもなく、常識的に考えればウソだということに気が付くようになりました。)

 

 

 悔しいことですが、やはり、環境にはあらがうことができない。社会心理学者のパリ大学の小坂井敏晶教授は、人間は「外来要素の沈殿物」といっています。  

 でも、環境にあらがえない、という人間の在り方がありのままにわかると、本当の解決策が見えてきたりもします。

 

 

 では、本来、悩みの治療の順番とは何かというと、

 ・(外的な)環境調整(生き方の転換、休職、転職、転校、転勤、離婚・別居、など)
   ↓
 ・(内的な)環境調整
   睡眠、食事、休養
   ↓
   運動
   ↓
 ・精神療法、薬物療法

 と、このようになります。

 

 

 見識を持つ、お医者様(やカウンセラー)ほど、一番上から取り組みます。

 

 

 まず、環境調整、食事や睡眠の改善を指導し、抗うつ剤などのお薬を出すのは一番最後、お薬を出しても沈まないための“浮き輪”として、といったように。
 実際に、うつ病でも薬のみでいきなり治療をしても、2割程度にしか効きません。

 

 お薬が必須である統合失調症の治療でも、社会の中で仕事や役割(環境)があることが解決には重要であるとされます。歴史に残る名医たちは、クライアントが住む環境を含めて理解をし、取り組んでこられました。

 

 うつ病では、上で書きましたが、薬のみでの改善率は2割ですが、運動を行った場合は9割の改善が見られたというエビデンスがあります。それほどまでに効果があるそうです。

 ※カウンセリングも薬物療法とほぼ同じくらいの効果ですが、カウンセリングで治療すると再発が少ないとされます。おそらく物事の捉え方や生き方などの変化を促すからだと思われます。ただ、それでも実はカウンセリングも運動の効果には及ばないのです。

 

 

 統合失調症の治療などで有名な中井久夫氏が、患者から、元に戻してほしい、といわれた際に「(また再発するような)元に戻すことはできません」といった有名なエピソードがあります。

 環境を変えるような取り組みでなければ、結局元に戻ってしまって、それでは意味がないということです。

 

 

 しかし、近年は、セラピー、カウンセリングが流行した結果、
 「(環境はそのままで)悩みを解決して、環境からの影響にびくともしない自分にしてください」
 といった信じられない依頼に対して、魔法のような効果を宣伝するものが増えてしまったような印象があります。
 昔の筆者も、環境はそのままで何とかしようとしていました。

 

 でも、環境に抗えない人間の本質を考えれば、残念ながら、あり得ないことです。
 実際に派手な宣伝のセラピーを受けてみても、宣伝文句のようにはうまくいきません。結局、検証できない見立てを理由に、延々とカウンセリングを受け続けさせられたりしてしまいます。  

 

 

 自分自身の生きづらさへの反発や、心理主義的なカウンセリングブームの熱から距離を置いて、少し頭を冷やして常識で考えればわかります。

 例えば、いじめにあった子供がいれば、その子にカウンセリングを受けさせていじめに対抗できる強い子にしよう、というのはどう考えても変なことです。普通は、いじめっ子への指導、クラス替え、転校という環境への働きかけを行う対処になります。

 

 

 ブラック会社でも同様です。会社への行政等の是正の指導か、転勤、転職が対応策であり、問題は環境側にある。  

 働いている誰かがうつになったり、不幸にも自殺したりしたら、まずは「不況のせいかな」とか、「仕事が大変なのかな」「職場の雰囲気に問題があるのかな」と思うのが本来の常識です。
 最初から「心理的なビリーフのせいだ」とか「本人が抱えるトラウマのせいだ」といきなり解釈してしまうのは、どこか変なのです。

 

 

 昔の筆者もそうでしたが、セラピーに魔術、奇跡を期待してしまいがちです。しかし、様々なことを経験すると問題解決には正しい手順というものがあることが見えてきます。(正しい手順をたどるから“奇跡”も起こる。)

 

 

 技術職の方などはお馴染みかもしれませんが、問題が発生したら「切り分け」といって、まずは簡単なことから疑っていく。

 例えばパソコンがインターネットにつながらないのであれば、手前の環境から疑っていく。ケーブルが抜けていないか?WiFiが切れていないか?といったこと。

 

 いきなり「オペレーションシステムのバグではないか?」とは考えません。
 実際に、問題の9割以上は、ケーブルが抜けていた、Wifiが切れていた、といった単純な問題です。

 

 しかし、私たちは精神的な悩みを解決する際に、いきなり「心理の問題だ(オペレーションシステムのバグだ!)」と手順を無視して解決しようとしてしまいます。笑い話ではなく、カウンセリングの現場でもそうしたことは多くみられます。これは非合理な心理主義的な態度です。

 

 

 人間は環境の生き物ですから、環境から調整することが王道です。
 職場があまりにもストレスフルなら異動、転職を検討する、家庭がひどいならやはりそこから離れることです。
 それぞれ経済的な問題もありますから大変ですけど、やはりそれが一番。

 

 

 「環境調整」の次に大切なのは、「睡眠、食事、休養」、「運動」です。
 早く寝て、定期的に運動しているほうが体内で成長ホルモンが働いて、脳内伝達物質など体内環境が修復されていきます。

 睡眠がとれないケースでしたら、一時、お薬の力を借りてでもしっかりと睡眠をとったほうが良い。

 

 

 長年、ブリーフセラピー、トラウマケアにも関わっていますが、モラハラ環境に居続けたまま、睡眠リズムが乱れたままであれば、例えば、効果が高いとされる心理療法をもってしてさえ、改善はスムーズにはいきません。

 ホルモンの言葉や遺伝子コードを唱えることも大事ですが、睡眠、食事をちゃんととって運動したほうが言葉から間接的にではなく、身体が直接、内部でホルモンや遺伝子を整えてくれますから当然治りは早いです。

 (そういえば、有名なカウンセラーもブログを見ると、意識されてかされずか、ジョギングやサーフィンなどの運動をされていますよね)

 

 

 ※遺伝子のオンオフは環境に強く影響されます。内因性(遺伝性)の病である統合失調症でさえ環境の影響は大きく、工業化や近代化といった環境の影響を明らかに受けていることが分かっています。実際に近代化以前はあまり問題にされていませんでした。現代でも発展途上国では治りが早いそうです。

 

 

 筆者も思えば、自身も心理療法を受けてきました。もちろん、よくなるのですが、最後のほうのピースがハマらない(ラストワンマイル)、なかなかよくなりきらない時期がありました。

 

 でもある時期から、徐々に考え方などが変わっていったり、生きづらさがなくなったり、ということを経験しました。振り返ってみれば、同じ時期に、ジョギングやテニスなどスポーツを始めたり、職場を変えたり、睡眠時間が長くなったり、といったことがありました。

 

 それぞれはトラウマを治そうとして行ったわけではなくたまたまです。当時は、運動なんて、と小バカにしていましたので、その関連には気が付いていませんでしたが、明らかに関係していると言わざるを得ません。

 

 

 筆者も治療者の一人として、さらに効果的なセラピーを開発しようと臨床の中でも工夫や試みを重ねていますし、「どんな人でも治せるような方法があるのでは」という理想は胸にあります。実はFAP以外にいろいろな新しい可能性が見えてもきています。

 

 

 ただそれでも、環境の力は認めざるを得ないし、環境を味方につけて活用したほうが絶対に改善は速いです。
 (むしろ、新時代のセラピーとは心理主義(心に原因を求める考え)を脱し、環境の活用を前提としたものではないか、と感じます

 

 

 安定型の人は、おかしいとみるやサッと職場を変えたり、支配的な人から距離を取ったりします。環境をしっかり活用しています。
 トラウマを負っていると問題は自分の責任だとして一つの環境に執着させられたり、他人と一体になれず、環境から疎外された感覚に陥る。
 トラウマとは環境を味方につけられなくなる病、ということかもしれません。

 

 

 睡眠、食事、運動などを通じて環境を味方につけることはトラウマを解消し、生きづらさを改善するためにはとても大切です。

 

 

 補足として、具体的な方法についてです。

 運動は、有酸素運動を週に3回20分。軽くウォーキングするだけでもよいですから、続けてください。
 (これはうつ病の研究で9割の改善が見られたとされたときに設定されたメニューと同条件です。ウォーキング以外でも、自分なりのやり方で大丈夫です。ヨガなどもよいでしょう。)

 

 ひきこもり、パニック、発達障害などで運動したくても家から出るのが怖い、といったお悩みを持つ方もいらっしゃいます。その場合は、下記の記事でも紹介させていただいております。医師が考案したお手玉や、ティッシュペーパーを用いる呼吸法もあり、効果的です。
 (参考)→「パニック障害とは何か?本当の原因と克服に必要な5つのこと

 

 

 食事は、一般的に言われるように3食をバランスよく採ることは必要です。ただ、それでも鉄分・ミネラル、ビタミンB群、たんぱく質などは不足しがちなので、意識して増やすかサプリメントなどで補う必要があります。特に女性は鉄分が不足しやすいとされます。

 

 パニック発作などの症状のある方はコーヒーは禁忌です。

 

 

 あと、精神科医の神田橋(條治)先生も勧めていますが、サプリメントで、GABA、エビオス錠を服用してみてください。不安などの精神活動が収まってきます。上記にも書きましたが、鉄分(亜鉛なども)、ビタミンB群についてもサプリメントで補うとよいでしょう。

 

 睡眠はやはり、22時~2時までの間にはできるだけ床についておきたい。その4時間は成長ホルモンが出るゴールデンタイムです。


 そして、最近は睡眠負債という言葉が注目されているように、仕事の時間などを削ってでも、自分に必要な睡眠時間(7~8時間)は確保したいです。
 睡眠時間が短いままでは、悩み解決はおぼつきません。

 

 睡眠障害などで睡眠がとれないのでしたら、医師に相談して、症状が重い場合は恐れず積極的に睡眠薬の力を借りてみてください。精神科や心療内科ではなく、専門の睡眠外来を利用するのも良いかもしれません。


 睡眠に関する書籍や情報を得るなどすることもよいでしょう。入眠時間や睡眠へのルーティンを見直してみてるだけでも違います。

 (参考)→「心の健康に影響する不眠症・睡眠障害~原因とチェック、克服のための10のポイント

 

 私共のクライアントさんでも、実践されている方の治りは圧倒的に早いです。

 

 

 

●よろしければ、こちらもご覧ください。

ブリーフセラピー・カウンセリング・センター公式ホームページ

お悩みの原因や解決方法について

 

トラウマとは、“長期のストレス”のことである

 

 スタンフォード大学のサポルスキーが書いた本に
 「なぜシマウマは胃潰瘍にならないか」というタイトルの本があります。

 

 タイトルのように、ライオンに襲われるような経験をするシマウマは不思議なことに胃潰瘍にならず、なぜ、平和な環境に住む人間に胃潰瘍が見られるのか?といったことなど、ストレスについてかかれた本です。

 

 

 ストレスに関する研究で分かっていることですが、動物は、単発のアクシデントには案外強い。ストレスホルモンが急上昇して対応し、アクシデントのあとは体を震わせるなどして負荷を除けば、普通に生活することができます(できるようになっています)。

 

 しかし、そのシマウマも、狭いゲージに長い期間に閉じ込めるなどのストレスでは不調をきたしてしまう。
 動物にとってストレス応答システムは、長期間のストレスには対応するようには作られていない、ということです。

 

 これはシマウマに限らず人間も同様です。
 人間のストレス応答システムも、長期のストレスに対応するようにはできていない。胃潰瘍になるのは、長期のストレスを浴びてしまうからです。

 

 トラウマに関連する本でもあまり触れられておらず、意外なことですが、単発のアクシデントには人間も比較的強いものです。

 

 シェルショックなどトラウマが注目されるようになったのは、第一次世界大戦ですが、それまでの戦争と違って第一次大戦では、長期の間、塹壕の中で砲弾の音やライフル、マシンガンに怯えながら過ごすことを余儀なくされました。

 

 人間はそれまでも戦争がありましたが、トラウマがさほどクローズアップされてこなかったのは、ストレス応答システムの特徴もその原因の一つではないか、と考えられます。

 

 もちろん、鉄道事故など大きなハプニングで、ストレスホルモンの閾値を超えるような大惨事はPTSDになりますし、レイプなどの単発の惨事を甘く見ることはできません。

 第一次大戦ごろから一つの兵器の破壊力が大幅に増して、単発であっても閾値を超えるストレスレベルであることも要因として見逃せません。

 

 

 ただ、上に書いた動物のストレス応答システムの知見からすると、もしかしたら、単発の大惨事の影響は、その出来事によるものよりも、周囲の無理解などその後のケアが不足して、長期にストレスを反芻し続けることでもたらされることなのかも?と思考を巡らせることができます。

 

 

 現代の私たちの多くにとってトラウマとは、「長期のストレスによるストレス応答系の失調」、のことを指します。「母親にぶたれた」とか、何か特定の出来事のことではありません。

(参考)→「トラウマの多くは、単発よりも長期間のストレスによってもたらされる

 

 

 ストレス応答系とは、自律神経系、免疫系、内分泌(ホルモン)系の3系のことを指します。

 

 長期のストレスを浴びて、ストレス応答系が失調することで、

  記憶に障害が出たり、
  テンションを合わせることができず対人関係を築き、維持できなくなったり
  緊張しすぎたり
  仕事がうまくいかなくなったり
  眠れなくなったり、
  体に不調が出たり
  など
 様々な機能障害が生まれるのです。

 

 トラウマとは長期のストレスのことですから、特定しようとしても意味はありませんし、治療にはつながりません。

(参考)→「トラウマを特定する必要はない。

 

 例えば、
 カウンセリングでは
 トラウマによると考えられる症状が出ているのに、
 過去について詳しくお話を聞いていても、特に顕著な問題がないことがよくあります。

 

 そのクライアントさんたちにとっては、家庭や学校は緊張の高いストレスフルな環境であった。一日だけであれば大したことがないけども、365日何年も続いてストレス応答系は失調をきたした、ということが考えられます。

 

 これが多くの方(ケース)にとってのトラウマです。

 

 そのため、子どもの前での激しい夫婦げんかなどは一発レッドカード(間違いなくトラウマになる)になります。最近では、こうした子どもの目の前で不適切なことを行うことを「面前虐待」というそうです。

(参考)→「夫婦げんかは一発レッドカード

 

 

 トラウマが単発のアクシデントととらえてしまうと、問題のありかは見えず、「単発のアクシデントはあったに違いない。忘れているだけだ」とされてしまいます。それをカウンセリングや催眠などで無理に掘り起こそうとすると、フォルスメモリー(過誤記憶)といって、偽の記憶が脳ででっち上げられてしまうことが起こります。

 

 実際海外では過去に、「私は親から性的虐待を受けた」とカウンセリングで掘り起こされても、証拠が見つからずに、大問題になって、逆に治療者側が裁判で訴えられた、ということがありました。


 これも、トラウマとはなにか?を誤解したことによるものと考えられます。
 (もちろん、実際に性的虐待があって、ごまかされているケースもありますからケース毎に慎重に見ていく必要があります)

 

 

 現代はストレス社会といわれます。
 長期のストレスを浴びる環境はそこここにあります。

 

 また、「それほどひどい家庭ではなかったけどなあ」「トラウマといわれてもこれといって・・」
 といった方でも、過去を振り返って、ストレスフルな環境が続いていた、としたら、トラウマを負っているということは考えられます。※極端に言えば、実は現代でトラウマを負っていない人はいないともいえます。程度の差です。  

 

 

 トラウマとは、長期のストレスとそれによるストレス応答系の失調のことである、との視点を持つと、自己理解や解決の助けになります。

 

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

 

●よろしければ、こちらもご覧ください。

ブリーフセラピー・カウンセリング・センター公式ホームページ

お悩みの原因や解決方法について

 

トラウマを負った人から見た”素直さ”と、ありのままの”素直さ”の実態は異なる

 

 社会に出ると、いろいろなフィードバックをもらいます。

「君は、こうしたほうがいい」
「君は、こういうところがある」

などなど、

仕事であれば、
そうしたことを承って、仕事の仕方を修正したり、ということが必要になります。

ただ難しいのは、当たり前ですが、世の中に絶対客観的な評価などない、ということです。

 

 嫉妬、やっかみ、支配欲など
いろいろな濁りが混ざって、フィードバックは飛んできます。人間の社会では避けられない。

 

 建前上は公正で、部下を指導、教育するはずの上司、先輩からやっかみも含んだ評価や指導が飛んでくるなんてことは、日常茶飯事。

 

 家族や配偶者同士でもそう。たとえば、オリンピックがありましたが、スポーツ選手同士、兄弟間でもどちらかが活躍すれば嫉妬や葛藤は避けられない。

 「あなたは~~人間ね」ということが的を得ておらず、無意識に相手をコントロールしたい、という欲求からのものであることもしばしば。

 

 ですから、人から言われたことはあくまで意見として承って、反映させるかどうかを吟味する必要があります。

 

 

いわゆる、「愛着」が安定していれば、
支持してくれる親や友人などの存在を内面化しているので、それらが参照元になって、真偽のほどを吟味する作業を支えてくれます。

 

 トラウマを負ったりして、それらがないと、他人の意見に流されたり、あたかも、それらが客観的な事実であるかのように真に受けてしまいます。

(参考)「「過剰な客観性」」

 

 また、トラウマを負った人は、向上心(問題解決意欲が)が高い傾向があります。見た目はかたくなに思われたりもしますが、基本的には「素直でありたい」と願っているので、他人の意見は素直に聞こうとします。それが裏目に出てしまって、まともに影響され、心が傷つき、ダメージを負ってしまいます。

 

 筆者が担当させていただいているクライアントさんたちが、よくおっしゃられるのは、
「人の意見を聞かずにかたくなに自分の態度を変えないような、(意識の低い)人間にはなりたくない」
ということです。

 

 もしかしたら、わからずやの親への違和感も手伝っているのかもしれません。(「ああは、なりたくない」)

 

ただ、「学校スキーム」と違い、
社会に出たら、“素直”さの中身が違うのです。

(参考)→「「学校スキーム」を捨てる」

 

 

 “素直”とは、真に受けることではありません。

理想を言えば、あたかも、自然科学者が自然を見るように、意見と事実はわけて、ありのままに見ようとする姿勢のこと。

 

 ただ、普通の人はさすがにそこまでの姿勢は難しいので、
適度にペンディング(保留)したり、おかしいなと思ったら、「なによ、あの上司!失礼なことを言ってきて!」と愚痴を言ったりして、バランスを保ちます。

 また、“太鼓持ち”として、うまくおべっかをつかって、先輩、上司に合わせることもします。それは悪いことではありません。必要なことです。

 

 人材が集まり、制度も整った大企業(中央官庁)でも客観的な評価など難しいですし、さらに中小企業、零細となれば、会社の体制、人材の充実度もどうしても下がります。荒っぽい職場もあります。そこで、客観的で素晴らしいフィードバックを期待するのは、幻想といえるかもしれません。

 

 筆者も子供のころを思い返すと、
悪ガキたちは、大人のいうことなんて、真には受けていなかった。適度に合わせますが、「それはそれ」として流したり、聞いているふりをしたりしていました。

でも、世の中ではそういう人のほうが、素直と評価され、
真面目に相手をしようとするとつぶれてしまう。

 

 本屋に並ぶビジネス関連の書籍ではよく、「社員は素直なほうがいい」と書いてありますが、あれは著者たちが主に経営者たちだからです。経営者から見て都合の良いことが書いてあります。経営者から見たら、社員は素直なほうがいいに決まっています。

 

 しかし、その経営者自身が素直か?といえば、はなはだ疑わしい。経営者は自己愛性パーソナリティ傾向の強い人が多いとされますが、他人に厳しく、自分にはどこか甘い人たちが書いた本だったりするのです。

 でも、真面目な人は、それを真に受けてしまう。

 

 

 以前も紹介しましたが、東大教授が書いた
「できる社員はやり過ごす」という本がありましたが、
活気のある職場は、やり過ごす文化がある、というものです。適当に流したり、やり過ごしたりすることは、ズルでも何でもない。

 

 結局、トラウマを負った人が見る“素直さ”と、実際の世の中のありのままの“素直さ”の実態とは違うようです。

 

 知っている人からすると当たり前のことなのかもしれませんが、これも、世の中の1階部分の裏ルールといえそうです。

(参考)→「世の中は”二階建て”になっている。

 

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

 

●よろしければ、こちらもご覧ください。

ブリーフセラピー・カウンセリング・センター公式ホームページ

お悩みの原因や解決方法について

 

悩みの中にある一日も、解決された後の一日も同じ一日

 

 これまでいろいろと見てきましたたように、トラウマを負ってしまった人が見る世界観と、そうではない人の世界観とは驚くほど違っていたりします。

 

 トラウマを負うと、ストレス応答のリズムが狂い、人とつながりづらくなり、その生きづらさを回避するために、独自のマイルールやファンタジーによってバイパス(迂回)して、世の中を何とかサバイバルしようとするからです。

 

 見えている世界がそうだと思っていたら、実態は全くそうではなかった、ということが起こります。

 

 

 ただ、生身の姿はどうかといえば、トラウマを負った人も、普通の人も違いはありません。同じようなもの。

 同じように弱いものだし、何でもかんでもうまくいくわけではないし、どうしようもないし・・。

 

 ただ、トラウマを負った人から見ると、普通の人はとても充実して素晴らしい人生を歩んでいるように見えてしまいます。

 

 自分が、セラピーを受けた先にある状況もとても素晴らしいものと考えていて悩みの渦中にある今は、受験勉強中の受験生か、減量中のボクサーか、収容所に収監されている捕虜か、といった感覚でとらえています。

 

 とても生きづらい人生を歩んでいますから、そういうファンタジーでも持たなければやっていけない。

 (参考)→「主婦、ビジネス、学校、自己啓発・スピリチュアルの世界でも幻想のチキンレースは蔓延っている

 

 

 でも、普通の人から見たら、「いや、別に、あなたも私もそんなに変わらないよ・・」
「すごいと思っているかもしれないけど、そうでもないよ」と返したくなります。

 

 筆者が会社員のころに、求職中の方や、学生と採用で会う機会がありました。
向こうは就職難で苦労していますから、難関を突破した会社やその社員はさぞ立派なモノだろう、職場も素晴らしいものだろう、
とキラキラした目で接してこられます。

 

 こちらからしたら、「いやいや、そうでもないよ」「社員の中でも困った人もいっぱいいるよ」「あなたと私にそんなに差はないよ」と感じたものです。

 

 私たちは日本で暮らしていて、その中でも生きづらさを感じることがありますが、発展途上国の貧しい人たちからしたら、天国の住人のように見えるかもしれません。
でも、やはり「いやいや、そうでもないよ」と応じてしまいそうです。

 

 別に下を見て安心しろ、とか、悩みなんてたいしたことないなんて、俗な言い分ではありません。

 

 例えば、以前も紹介した、仏陀の「からしだね」のエピソード

 夫や子供を亡くした未亡人が、ゴータマ(仏陀)に相談したら、
「一度も死者が出ていない家から、からしだねをもらってきなさい」といわれます。
村の家々を尋ねてみたら、
「(実は隠しているだけで)ウチでも不幸が・・・」となって、どこに行っても、不幸のない家は見つかりません。
家々を回るうちに、未亡人の悩みは晴れていった、というものです。

 

 他人の不幸で安心した、というのではなく、ありのままの現実(ニュートラル、中庸)を見て、幻想(暗示)が解けていった、ということです。

 

 解決は、先にあるのではなく、そこにある。

 

 トラウマが解消されていくと、そういうニュアンスが肌で分かるようになってきます。

 

 そして、気が付いていきます。

 悩みの中にある一日も、解決された後の一日も同じ一日であることを。

 

 悩みが解決しなかったら何にも始まらない、といって今日の一日が未来の準備になることはとてももったいないこと。


 悩みの中にある時はカウンセリングなど適切なサポートを受けることも大事ですが、おそらく将来、歳をとってから「なんで自分は、あの時、もっと楽しんでおかなかったんだろう?」ときっと感じてしまうでしょう。

 

 セラピーに割く時間とお金を、趣味や旅行といった、その時の“今”に割いておけばと思うに違いありません。

 

 〝今”を将来の準備期間とするというのは、今の自分にダメ出ししているようなもので、どこまでいっても終わりがなく、やがて、努力は反転してこちらに崩れかかってきます。

 

 ただ、今を楽しむ、といっても、エキサイティングなことをしよう、ということではありません。〝リア充”といって皮肉られるような、無理やりなものではなくて、とても平凡なものです。

 一日は、今も平凡で何もないし、悩みが解決した後も平凡で何もありません。

 徐々にそんなことが見えてきます。

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

●よろしければ、こちらもご覧ください。

ブリーフセラピー・カウンセリング・センター公式ホームページ

お悩みの原因や解決方法について