理不尽さを「秘密」とすることは、トラウマ、生きづらさを生む

 

 トラウマを負った人は、自分のウソや隠し事をする代わりに、家族など周囲の理不尽さを内側に隠し持つようになります。

 いわゆるアダルトチルドレンとは、「依存症の親を持つ子ども」という意味ですが、親が酒を飲んで、くだを巻いたり。親同士がケンカをしていることであったり、あるいは、母親が男性を連れ込んでいる姿であったり、ということを「秘密」として隠し持つようになります。

 

 

(参考)→「<家族>とは何か?家族の機能と機能不全

 

 

 「自分」のウソや隠し事は健全な自我を育みますが、環境からもたらされる理不尽さを「秘密」として隠し持つことはトラウマとなり生きづらさを生みます。

 なぜなら、トラウマとはストレスや理不尽さを記憶として処理できない“記憶の失調”のことを言うからです。

 


 私たちは通常、ストレスや理不尽な目にあったときは、ストレスホルモンが急上昇して、理不尽さに感情をぶつけることで、それらを中和して処理します。脳内では偏桃体や海馬がそれを担います。理不尽さは記憶として整理されて収められていきます。

 

 しかし、理不尽さを当たり前のこととして、「秘密」として内面化することになれてしまうと、それが条件づけられてしまい、ストレスホルモンのセンサーが狂い、偏桃体や海馬が機能しなくなっていきます。理不尽さは記憶として処理されず、冷凍保存されて残ってしまうのです。

 

 またストレスのセンサーが狂うことで、例えば、嫌なこと、理不尽な目にあっても、その場では対処できなくなってしまうのです。何にも感じずに固まるか、血の気がスーッと引くような感じになります。

 

 そして、その場ではクールに対応していますが、のちにストレスホルモンが上昇してきて、自分の中では、反省大会、次回へのシミュレーションなど、頭のぐるぐる回りが始まって、家でもリラックスできず、眠れない夜を過ごすことになるのです。

 

 

 

 例えば、筆者も実家が自営業で、子どものころは夫婦げんかが当たり前でした。
ある時、自営業の父親について、お客さんの家に配達にお手伝いに行きました。その際にその家に子どもがいて、筆者が玄関先で配達が終わるのを待っていると、大人が見ていないときに筆者に意地悪をしてくるのです。
「お前なんでここにいるねん、しばくぞ」と耳元で囁いてくるのです。
大人が見ている時は、その意地悪な子どもは知らんぷりをしています。

 

 筆者は、そのことが怖くて固まってしまっていました。

 

 なぜ、子どもがそのようなことをしてくるのか、まったく意味が分かりませんでした。そして、反撃もできず、それは父親にも言えずに、理不尽さはその意地悪な子供と筆者との間の「秘密」となってしまったのです。

 

 おそらく筆者の場合は、夫婦げんかなどで理不尽さが条件づけられているところに、外での理不尽を経験しても、血の気が引いて対処できなくなっていたということだったのだと思います。

 

 こうしたことはパターンとなって、大人になっても苦しめられるようになります。

 
 レイプなどの被害者は、レイプという出来事自体もひどいことですが、なにより、加害者との間に「秘密」を抱え込むことが、とてつもないダメージとなってしまうのです。

 

 

 

 震災などの自然災害や事故でもこうしたことは起こります。災害はあまりにも理不尽な出来事です。それを周囲とうまく共有できずに「秘密」として抱え込むと、最初は淡々としていても、ある時うつ状態になってバタンと倒れてしまいます。

 
 会社でもそうです。
職場では理不尽さは横行しています。それをうまく発散できれば良いですが、真面目な人ほど抱え込んでしまいます。会社という閉鎖空間の中で理不尽な上司の発言、無理な目標は会社や上司との間の「秘密」となってしまい、家族にも言えずにトラウマとなって苦しめてしまうのです。

 いつしか、真面目な人は、他人の理不尽さを引き受ける「ゴミ箱(ガーベージ)」として扱われてしまいます。

 

 機能不全家庭の親や、自己啓発のグルやブラック会社の経営者などが言うように、「愚痴を言うな」というのは、まったくのデタラメで、愚痴を言うことは良いことです。
理不尽なことを「秘密」とせず、それは理不尽だ、と宣言することですから。ぐちぐち、ぶつぶつと、愚痴は言ったほうが良いのです。

 
 このように、理不尽さは都度はねのけて、外側にはき出し、適切に「外部化」する。そして、自分の内面は隠し持つことで健全な自分ができて生きやすいとなります。

 

 しかし、トラウマを負っている人は、その逆に、自分とは関係のない理不尽な出来事を「内面化」させられ、自分の隠し事は隠し持つことを許されないまま、ニセ成熟で大人びた状態で生きさせられているのです。

 

 そして、自分の「隠し事」を持とうとしても、それがやましい「秘密」のように感じられてしまい、自我を確立させることができなくなったり、成熟が遅れてしまいます。

 

 
 トラウマを負った人は、人に対して内面を開示しない人になってしまうか、逆に、(まれに)何でも開示する、妙にあけっぴろげな人になったりして、どちらにしても本当の意味で人とつながることができなくなってしまうのです。

 

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

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ウソや隠し事がないと生きづらさが生まれる

 

 ウソをついたり、隠し事をするのは、発達の過程ではとても重要だとされます。ウソや隠し事をすることで、自と他との区別が初めてできるからです。ウソや隠し事を通じて人間は自我を確立していくのです。
(育児や発達の本を読むと登場してきます。)

 

 人間とはクラウド的な存在です。
自分というものが初めから存在しているわけではなく、外来要素を内面化して束ねているのが自分です。オープンなスマートフォンのような状態です。スマホ本来の機能は何もない。

 ただ、写真やメールなど自分のデータを暗号化して外から読み取れないようにしたときに、はじめてその部分が「自我」になる。

だから、ウソや隠し事はとても大切なのです。

 

 

 機能している健全な家族、安定型愛着の家庭であれば、ウソや隠し事もある種のユーモア(諧謔)で対応されます。
「なんちゃって!」が通用することがすごく重要です。
もちろん、「ウソや隠し事はダメよ」とはなりますが、実際は「ウソや隠し事もときにOK」「仕方がないな(人間というのはそういうものだ)」として柔軟に運用されているわけです

(参考)→「<家族>とは何か?家族の機能と機能不全

 

 

 機能不全家族の場合は、逆に、とても厳格に真面目に運用されます。人間のイメージが宗教画のように清らかで完璧です。そこでは、「ウソをつくな!」といって、ウソや隠し事は封じられてしまいます。

 

 

 

 あるいは、親が機能していないために、子供が「優等生」となり、親代わりにしっかりしている、という場合もあります。

 

 そこでは、子供がしっかりしているから自我が芽生えているか、というとそうではなく、子どもらしいうそや隠し事ができないまま、子役のようにニセ成熟として親代わりを演じているだけです。ですから、大人になってから「自分がない」という状態になり、苦しむことになります。

 

 

 

 ブラック会社やカルトなどはある種の機能不全職場ですが、そこでも、「ウソや隠し事は厳禁」で「社員は素直であること」が強いられます。上司が「俺の目を見ろ!」として、ウソや隠し事がない状態を強います。

 

 社員は隠し事なく、会社の指示に従う。それがいいように聞こえますが、全然そんなことはありません。

 

 昔、東大教授が書いた「できる社員はやり過ごす」という本がありました。つまり、上司も万全ではないので、健全な組織では、時に上司の指示をやり過ごしたり、部下たちは自分たちの裁量でこっそり開発したり、仕事を進めたりしていた、ということです。

 

 

 最近はやりのガバナンスというと、すべてが透明で、指示が徹底される、というように思われていますが、健全な職場というのはそうではなありません。機能する家庭のように、ある意味いい加減で、社員それぞれは秘密はありますが、全体としては成果を上げるように頑張っている、というものです。

 

 

 

 トラウマを負った人は、過度に真面目です。隠し事ができません。建前と本音が嫌いです。使い分けることができません。それはピュアでいいこととされますが、実は、真面目で隠し事ができないことが、「自分がない」という生きづらさを生んでいるのです。

そして、“本当の自分”を外に求めてさまようことになります。

 

(参考)→「<家族>とは何か?家族の機能と機能不全

 

 

 

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親からの暗示で、感情、怒りを封じられる。

 

 親からの暗示で、さらによくあることとしては、感情、とくに怒りを封じられる、ということがあります。
 怒りというのは、自分を守るためのもので、ストレスに対処して、記憶を処理するうえでもとても重要です。

 そして、怒りは決して大きな怒りばかりではない、小さな怒りというのは日常にあって、それはテンションをコントロールするうえでもとても重要です。

 

 普通の人たちを見るとよくわかりますが、小さな怒りはそこここにある。

「なんだよ!!お前、ひどいな!」といいながら、友人同士、同僚同士で小さな怒りをやりとりしあう、というのはよくあることです。

その小さな怒りでテンションを上げて、人同士はつながることもできるのです。

 

 

 

 一方、もし怒りを封じられてしまうと、人同士がつながることがうまくできなくなってしまいます。

「ほら、あなたはすぐに怒る。親戚の~~さんみたいだ」

「すぐ怒るから、あなたは誰ともうまくいかない」

「親に向かって怒るとはひどい人間だ。あなたはおかしい」

 

といったように、感情を先回りして封じられることがあります。また、怒りは、受け止めてくれる相手がいないといけないのです。でも、先回りして暗示を刷り込まれることで受け止められることもありません。それをされると、人間が機能するうえで必要な怒りも発散できなくなります。

 

 怒りが発散できなくなると、怒りが脳内に帯電して、感覚麻痺や過敏を引き起こしたり、脳の過活動で低血糖状態を引き起こしたり、人間関係で計算違いを引き起こしたりして特に対人関係がうまくいかなくなります。

 


 もちろん、怒りを封じられても怒っていることがあります。
例えば、機能不全家族の中で、ずっとそのことに怒っている子供はいますが、それは、本当に怒っているわけではなくて、「非機能的な怒り」といわれるものです。
本当に心から怒って、発散しているというよりは、捻じ曲げられてゆがめられたような怒り、発した後に後悔が襲ってくるような怒りです。

 

 あるいは、怒りでキレて、てんかんのようになかば人格がスイッチしてしまって、自分ではない、親が刷り込んできた「おかしな人間」の自分が前面に出てくるような怒り、もあります。本来の自分ではないので、むしろ怒りはたまるばかりです。

 

 

 そうした「非機能的な怒り」は、本当の怒りの発散にはつながらずに、怒れば怒るほど、後悔が襲ってきて自尊心は傷つき、ますまず頭で帯電してしまいます。

 

 

 

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親が子に植え付ける負の暗示

 

 私たちは、まさにそのものといってもよいくらいに環境を内面化しています。環境≒自分 といっても過言ではありません。一番の影響は、長い時間を過ごす家族からの影響です。

 

 

 セッションをしていて、クライアントさんからよく耳にする親からの暗示は、
「あなたは素直ではない」

「あなたは、(家族親戚の中で厄介者とされている人物)によく似ている」

「あなたは協調性がない、どこに行っても通用しない」
など、といったこと。


 親がどうしてそんなことをするのか?ということは、おそらく突き詰めれば、生物学的にどうもそうらしいとしか言えませんが、

 

 親だから愛情を持っている、というのは神話で、
親も子に嫉妬するし、恐れるし、
子育ての大変さにイライラもするし、
家庭の中も小さな社会だから、そこを支配しようという支配欲もあります。

 

 
 支配のために手っ取り早いことは、裏ルールは隠して、表ルールのきれいごとだけでゴールポスト(善悪の基準)を勝手に動かすこと、

 ゴールポストを勝手に動かしていると、そのうち子供も疑問を持ち始めます。
それをごまかすために次にすることは偽の成功例(失敗例)を作ること、派閥を作ること。

 

 兄弟がいれば、兄弟に理想の「優等生」を作って、
それに従わない子を「素直じゃない」として貶めます。

 

 実際に成功例があるものだから、叱られた子は真に受けてしまい、自分を責めて追い込んでしまいます。

 

 皮肉にも、素直であればあるほど「素直じゃない」といわれるものだから、さらに素直になろうとして、親からの罵倒を内面化してスポンジのように吸収してしまいます。

「素直じゃない」とはかくも恐ろしい言葉です。

 

 

 兄弟がいない場合(いる場合でも)は、家庭の外に理想の優等生像を作り出します。親戚や近所のお兄さん、お姉さんだったり、架空の子どもだったり。

 あるいは、親戚の厄介者、たとえば鼻つまみ者で知られるおじさん、おばさんを例に挙げて、「あなたはあの人に似ている」と繰り返し子供にレッテルを貼ります。

 

 すると、子どもはそのレッテルをはがそうと一生懸命自分を変えようと努力します。
よく考えれば、そんな努力は最初から必要ありません。
なぜなら、そのレッテルは真実ではないから。

そうして努力をしているうちに、自然の植物を造花にするかのように、本来の自分が歪められ、自分が何かもよくわからなくなってしまいます。

 

 

 

「あなたはどこに行っても通用しない」というのもすごい暗示です。

 常に、根拠なく、自分は異質で他者から受け入れられない恐怖を植え付けられます。その恐怖から逃れるために、対人関係で必要以上に気を使ったり、相手に合わせたり、ということをしてしまうようになるのです。


 そして努力して、自分を変えようとして、苦しみを与えた加害者であるはずの親に、そうとは知らずに、「私は変わった?」「いい子になった?」と承認を求めてしまうのです。すると、またゴールポストを勝手に動かされて、苦しみを与えられるという無限ループにはまっていっています。もし、認められるとしてもそれは「行動の結果」であって「存在そのもの」を認められることはないのです。

 

 詐欺師にだまだれた人が、だまされてもなお詐欺師を信じて「どうしたらいい?」と当の詐欺師に相談するかのようです。とんでもない矛盾ですが、こういうことが起きます。

 

 

 

 自我の形成期である、子どもにとって親は“神様”です。
“神様”から、上記のような負の暗示を植え付けられるわけですから、その暗示はなかなか落とせるものではありません。

 

 よくセラピーで「真のビリーフ」「コアビリーフ」などといって、それらを解きます、と喧伝するものがありますが、本当にうまくいったケースを聞いたことがありません。
なぜなら、“神”からのご託宣ですから。セッションで変えようとしても上書きされてすぐまた元に戻ってしまうのです。

 

 

 

 結局、クライアントさんは、その答えの出ない暗示をずっと解こうとしてぐるぐる考えさせられています。

「どうすれば素直になれるのか?」
「人と仲良くするためにはどうすればいいのか?」
「自分は、人とは違って本質的におかしな人間なのではないか?」

 

 そして、親は、自分たちにとって都合のよい「表のルール≒二階部分」しか教えていませんから、子どもは、裏ルール≒1階部分が分からないまま、痛い目にあい続け、特に人間関係で負け続けてしまいます。

 

 人に聞いてみても、裏ルールは野暮なことで誰も教えてくれません。本当は、皆それぞれに不幸で、それぞれにうまくいっていないものなので、チキンレースをしていたりするのですが、それは隠されたまま、自分はできていると見栄を張ったままです。

 

 うまくいっているように見える他者に

「どうすれば素直になれる?」
「私っておかしくない?」

と相談すれば、

 

「もっと話し方を変えれば?」
「明るくすればいい」
「空気が読めないからじゃない?」
といったような余計なアドバイスが返ってきて、

 

 真面目な子供はそれを真に受けてしまい、

「(他者はできているのに)自分だけできていない」
「(他者はできているのに)自分は友達もいない」
「(他者はできているのに)自分は仕事もできない」

として、
また自分を変えるための当てもない努力を強いられることになるのです。

 

 

 その頭の中では、

「あなたは素直ではない」

「あなたは、(家族親戚の中で厄介者とされている人物)によく似ている」

「あなたは協調性がない、どこに行っても通用しない」

という親の暗示が、ずっとこだましています。

 

 

 

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