トラウマを特定する必要はない。

 

 クライアントさんの多くがご質問されることに、
「私のトラウマは見つかるものでしょうか?」
「何がトラウマかわかるものでしょうか?」
ということです。

誰もが気になるところです。

 

 

 前回の記事にも書きましたが、
トラウマの多くは、長期間のストレスによるものです。

 そのため、多くの方がイメージされるように、ドラマチックな一回のイベントによって、というよりも、長くストレスがかかったために、理不尽さを記憶として処理できなくなっているケースが多いです。

 

 こうしたトラウマの特徴について、理解を深める必要があります。

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 
 さらに、過誤記憶(フォルスメモリー)の問題もあります。本人は過去の虐待があった、自分の周りはひどい人たちばっかりだ、と考えていますが、実はそれは記憶の誤りであった、ということです。

 これは発達障害傾向の方に多く、甲状腺疾患などのホルモンの問題によっても生じます。

 

 敏感性を持っていることや、記憶がシャッフルされやすいために、体に触れられたり、大きな声を聴いたり、といったちょっとしたストレスも虐待として記憶されてしまうのです。

これは、決して珍しいものではありません。

 

 

 

 よく犯罪の目撃証言などの記憶の実験でも、「確かに、私はこの人を目撃した」といっても、実はそれは実験上のひっかけでした、というものがあります。本人は確信していますが、記憶というのはかなりあやふやなものなのです。

 

 
 診療やカウンセリングでもこうしたことは起こります。

 ラポールも取れて良い感じで終わった、と思っていたら、
翌日クレームが来て、「医師やカウンセラーにひどいことを言われた」と訴えて、医師やカウンセラーが驚く、ということがあります。

 本人にとってちょっとした刺激がトリガーになって、記憶が飛んだり、間違えて解釈されたりといったことが起きるのです。

 

 これが何十年も前の家庭内のことですから、なおさらのことです。記憶の保証はありません。

 

 
 それを超えて、客観的にトラウマを特定しようとして、
例えば、催眠や筋反射テストなどをしてみれば、理屈上はできなくはありませんが、それらしい答えが出たとしても、それが本当か、答え合わせをするすべがないのです。

 

 また、繰り返しになりますが、トラウマの多くが長期間のストレスによるものですから、特定することも難しかったりします。

 
 こうしたことから、実はトラウマケアを行う上でトラウマをピンポイントで特定する必要性はなく、その人にとって生きてきた中でストレスに感じられてきたものを伺って、現在困っている症状にアプローチしていったほうが結局は速く良くなっていきます。

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

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お悩みの原因や解決方法について

 

トラウマの多くは、単発よりも長期間のストレスによってもたらされる

 

 トラウマを負った人が、その場で対処できない、理不尽さに「いいかげんにしなさい!」とつっこめないことの原因の一つは、ストレス応答系(ホルモン)の失調にあります。

 

 
 もともと動物のストレス応答系とは、HPA軸(視床下部‐下垂体‐副腎)と呼ばれるシステムで成り立っています。
つまり、ストレスを受けた際に視床下部から下垂体に、下垂体に指令が下り、グルココルチコイド(ストレスに対処するためのホルモン)が放出され対応されます。

 本来、動物のストレス応答系とは、急激なストレスに対応するためのものです。ライオンに襲われると急激にホルモンを放出して逃げ去り、またリラックスした状態に戻る、といったことです。

 

 

 人間も同じタイプのストレス応答系を受け継いでいます。
そのため、意外なように思われるかもしれませんが、災害とか、単発のショック体験といったことについては、(もちろん、事後のケアが必要にはなりますが)人間(動物)は強い。


 一方、ずーっと長期間ストレスにさらされ続けることについては、動物のストレス処理系は慣れておらず、弱い。
継続したストレスにさらされると壊れてしまいます。

 

 ラットを使った研究で、ネグレクトを受けたネズミのストレス処理システムが壊れるのは、それが一回ではなくて、一定期間継続されるから。

 

 

 シェルショックといって、第一次世界大戦から復員した兵士が、音に反応して体が飛び跳ねる障害を負ってしまったのも、一回の砲弾の音でトラウマを負ったというよりも、塹壕の中で長期間恐怖にさらされながら、砲弾の音を聞き続けたから。

 

 

 もしかしたら、誤解されている方がいらっしゃるかもしれませんが、ストレスのセンサーが壊れるの原因の多くは、一回の衝撃によって、というより長期間のストレスによってと考えられます。

 

 
 もともと人間のストレス応答系は長期間のストレスへの対応は不得手ですから、ストレス応答系のセンサーが壊れてしまう。あるいは、別の言い方をすれば、長期間のストレスに適応するようなシステムになってしまう。

 

 

 カウンセリングでも、ほとんどのケースが単回性のトラウマではなくて、複雑性(長期間にわたる)トラウマです。長く理不尽な環境にさらされることでストレス処理系が失調をきたし、現在の理不尽さにその場で対処できなくなってしまう。その場の出来事に初々しく反応ができなくなってしまいます

バカにされたり、いいようにされたりしてしまうのはこのためです。

 

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

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お悩みの原因や解決方法について

理不尽さを「秘密」とすると、人間関係がおそろしく、おっくうなものとなる。

 

 理不尽さを「秘密」として隠し持つようになると、人間関係が気まずいものとなります。
人間も一階部分ではネガティブな感情が渦巻く世界ですが、そこを都度キャンセリング(ストレス処理)していく必要があります。

 


例えば、相手がおかしな行動をした、失礼な言動があれば、

「どうしたの?」とか
「失礼なこといわないでください」といったことをその場で言い返す必要があります。

 

 

 会社で無理な仕事や目標を課されれば、時には「それはできません」ということも必要です。
(No といわないことの美徳を称揚する経営者がいますが、それはそれが自分にとって都合がいいからです。)

 

 

 理不尽さを「秘密」として持つことが習い性となっていると、そうしたことができず、相手がおかしなことをしたら、それはすべて「秘密」となってしまい、自分で抱え込むこととなってしまいます。

 人間関係はどんどんと、気まずいものとなります。


 

 世の中は理不尽なことだらけです。

人間は、頻繁に解離(発作)を起こしています。
そのため、まともに見えてもおかしな言動は日常茶飯事です。

そのすべてを「秘密」としてしまっては、生きづらくもなって当然です。

 

 そのうち、逃げ場がなくなって、誰とも付き合いたくない、と人間関係が「おっくう」になってしまいます。

 

 
 小さい子どもにとっては、親は「神」ですから、その神が理不尽な行動をとる、ということは、なかなかショッキングなものです。そこを正当化して、「秘密」として隠して、ということはしばしばあります。

 
 例えば、あるクライアントさんの親は、応答が不自然で、自然な会話が成り立たない。
電池が切れたように急に黙り込んだり、ある時は、なんでそんな冷たい応答するの?、というような会話になるそうです。

 

 その時に、良い子ほど取り繕うために、それを「秘密」としてしまう。その場を取り繕うためにぶつぶつと一人芝居のように、独り言を言うようになってしまう。

 

 

 漫才のつっこみみたいに、「おいおい、どうしてん!」となれば、その理不尽さはキャンセルされるのですが、なかなかそれができません。
 理不尽さを「秘密」としているうちに自己愛が傷つくと、人間観が歪んだまま発達が止まってしまいます。

 相手は「神」のままか、「神が堕落した化け物」のような存在としてしか見えなくなってしまい、どちらにしても、ありのままには見えなくなります。

 

 相手は「神」か「化け物」だから、つっこめくなるのです。
ありのままに見えないというのは、神の似姿としての立派な人間がおかしくなった(化けにものになった)と感じられるということ。そうなると、秘密にもしたくなります。

 

 

 一方、普通の人たちの世界観、言い換えれば、落語の世界観のようにもともと人間とはどうしようもないものだと思っていれば、それは滑稽となります。


 私たち人間は、落語の主人公たち、江戸っ子みたいに、人間はどうしようもないものととらえていて、少々怒りっぽく、ユーモアがあって、つっこめるほうがいい。
実はそのくらいで普通なのです。

「おいおい、どうしったってんだよ!」
「いい加減にしなさいよ!しまいにゃあ、怒るよ!」
「あいつは、頭でもおかしくなっちまったのかね!?」と。

 

 

 おかしな行動を、奇怪で、おどろおどろしいもの、としてとらえずに、ユーモラスなものととらえて、つっこむことは、自然な行為です。

ということは周囲の普通の人たちも、どんどんとこちらにもつっこんできます。
「~~さんって、こういうところあるよね。」とか、
「~~さんって、自分のこと何も話さないよね」とか、

 

 そうして人間関係は豊かなものとなってきます。
しかし、トラウマを負った人は、そのつっこみを「攻撃」ととらえてしまい、自分の奥底に立ち入ってこられた感じがして、さらに人間関係が怖くなってしまう悪循環に陥ってしまうのです。

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

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お悩みの原因や解決方法について

 

理不尽さを「秘密」とすることは、トラウマ、生きづらさを生む

 

 トラウマを負った人は、自分のウソや隠し事をする代わりに、家族など周囲の理不尽さを内側に隠し持つようになります。

 いわゆるアダルトチルドレンとは、「依存症の親を持つ子ども」という意味ですが、親が酒を飲んで、くだを巻いたり。親同士がケンカをしていることであったり、あるいは、母親が男性を連れ込んでいる姿であったり、ということを「秘密」として隠し持つようになります。

 

 

(参考)→「<家族>とは何か?家族の機能と機能不全

 

 

 「自分」のウソや隠し事は健全な自我を育みますが、環境からもたらされる理不尽さを「秘密」として隠し持つことはトラウマとなり生きづらさを生みます。

 なぜなら、トラウマとはストレスや理不尽さを記憶として処理できない“記憶の失調”のことを言うからです。

 


 私たちは通常、ストレスや理不尽な目にあったときは、ストレスホルモンが急上昇して、理不尽さに感情をぶつけることで、それらを中和して処理します。脳内では偏桃体や海馬がそれを担います。理不尽さは記憶として整理されて収められていきます。

 

 しかし、理不尽さを当たり前のこととして、「秘密」として内面化することになれてしまうと、それが条件づけられてしまい、ストレスホルモンのセンサーが狂い、偏桃体や海馬が機能しなくなっていきます。理不尽さは記憶として処理されず、冷凍保存されて残ってしまうのです。

 

 またストレスのセンサーが狂うことで、例えば、嫌なこと、理不尽な目にあっても、その場では対処できなくなってしまうのです。何にも感じずに固まるか、血の気がスーッと引くような感じになります。

 

 そして、その場ではクールに対応していますが、のちにストレスホルモンが上昇してきて、自分の中では、反省大会、次回へのシミュレーションなど、頭のぐるぐる回りが始まって、家でもリラックスできず、眠れない夜を過ごすことになるのです。

 

 

 

 例えば、筆者も実家が自営業で、子どものころは夫婦げんかが当たり前でした。
ある時、自営業の父親について、お客さんの家に配達にお手伝いに行きました。その際にその家に子どもがいて、筆者が玄関先で配達が終わるのを待っていると、大人が見ていないときに筆者に意地悪をしてくるのです。
「お前なんでここにいるねん、しばくぞ」と耳元で囁いてくるのです。
大人が見ている時は、その意地悪な子どもは知らんぷりをしています。

 

 筆者は、そのことが怖くて固まってしまっていました。

 

 なぜ、子どもがそのようなことをしてくるのか、まったく意味が分かりませんでした。そして、反撃もできず、それは父親にも言えずに、理不尽さはその意地悪な子供と筆者との間の「秘密」となってしまったのです。

 

 おそらく筆者の場合は、夫婦げんかなどで理不尽さが条件づけられているところに、外での理不尽を経験しても、血の気が引いて対処できなくなっていたということだったのだと思います。

 

 こうしたことはパターンとなって、大人になっても苦しめられるようになります。

 
 レイプなどの被害者は、レイプという出来事自体もひどいことですが、なにより、加害者との間に「秘密」を抱え込むことが、とてつもないダメージとなってしまうのです。

 

 

 

 震災などの自然災害や事故でもこうしたことは起こります。災害はあまりにも理不尽な出来事です。それを周囲とうまく共有できずに「秘密」として抱え込むと、最初は淡々としていても、ある時うつ状態になってバタンと倒れてしまいます。

 
 会社でもそうです。
職場では理不尽さは横行しています。それをうまく発散できれば良いですが、真面目な人ほど抱え込んでしまいます。会社という閉鎖空間の中で理不尽な上司の発言、無理な目標は会社や上司との間の「秘密」となってしまい、家族にも言えずにトラウマとなって苦しめてしまうのです。

 いつしか、真面目な人は、他人の理不尽さを引き受ける「ゴミ箱(ガーベージ)」として扱われてしまいます。

 

 機能不全家庭の親や、自己啓発のグルやブラック会社の経営者などが言うように、「愚痴を言うな」というのは、まったくのデタラメで、愚痴を言うことは良いことです。
理不尽なことを「秘密」とせず、それは理不尽だ、と宣言することですから。ぐちぐち、ぶつぶつと、愚痴は言ったほうが良いのです。

 
 このように、理不尽さは都度はねのけて、外側にはき出し、適切に「外部化」する。そして、自分の内面は隠し持つことで健全な自分ができて生きやすいとなります。

 

 しかし、トラウマを負っている人は、その逆に、自分とは関係のない理不尽な出来事を「内面化」させられ、自分の隠し事は隠し持つことを許されないまま、ニセ成熟で大人びた状態で生きさせられているのです。

 

 そして、自分の「隠し事」を持とうとしても、それがやましい「秘密」のように感じられてしまい、自我を確立させることができなくなったり、成熟が遅れてしまいます。

 

 
 トラウマを負った人は、人に対して内面を開示しない人になってしまうか、逆に、(まれに)何でも開示する、妙にあけっぴろげな人になったりして、どちらにしても本当の意味で人とつながることができなくなってしまうのです。

 

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

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