「安心安全」がないと回復もおぼつかない。
社会という山を登っていこうにも、足場がないために、うまく上に上がれなかったり、実力があっても悔しい思いをすることもしばしばです。
では、その足場をどのように確保すればいいのか?
現代は、心理学やセラピーが大衆化したために、なんでもかんでも「心の問題」と考える傾向があります。
これは大きな間違いです。
経験のあるカウンセラーや医師に尋ねれば、「悩みの原因のうち、心理が占める割合は1割もない」と答えます。
(筆者の経験からも、心理が原因であることはほとんどない、と感じます。トラウマとは環境の問題や身体の失調のことを指します。
心理とは、環境や身体の失調の果てに歪む、こじれるものであったり、という感覚です。)
ほとんどが環境であり、生体的なものに問題があります。
(トラウマとは、環境からのストレスが生体にダメージを与えることをいいます。)
足場(安心安全)を確保する、悩みを解決する、というのは心理的な問題に取り組む、というよりもまず、身体からスタートする必要があります。
身体からスタートとはなにか? それは睡眠、食事、運動の3点を整えるということです。
身近にお子さんがいらっしゃるとわかりますが、子どもは眠くなると泣き出したり、怒り出したり、わけがわからなくなったりします。
単に眠いからなのですが、理性的ではなくなってしまいます。
実はこれは大人も同じことで、表面的には子どもよりも成長して安定しているように見えますが、睡眠不足が及ぼす強い影響力には変わりがありません。
睡眠不足は人間を確実におかしくしてしまいます。
皆さんが悩みが生じている要因の一つは、睡眠不足、あるいは就寝時間が遅い、ということがあります。
パーソナリティ障害や発達障害といった難しいケースでは、必ずといってよいほど睡眠がよく取れていないことがあります。
かつての警察の取り調べとか、セミナーのマインドコントロールといったことでも、きまって、睡眠時間を短くするということが行われます。いかに人間が睡眠時間が取れないとおかしくなってしまうか、ストレスに抵抗できなくなってしまうか、ということを示しています。
徹夜しても大丈夫、少々睡眠不足でも影響がないと思っているのは、錯覚です。
人間というのは、不安定な水の上に浮かぶ小舟のようなもので、規則だたしく睡眠や食事、運動を繰り返して代謝を行わないと、すぐにバランスを崩してしまう生き物なのです。
体力に個人差はあっても、この原則は変わりません。
もし、「夜中1,2時まで起きていて、睡眠時間は4時間程度」という方がいれば、どんなに薬を飲んでも、セラピーを受けていても、効果は限られてしまいます。
睡眠時間はそのままで「私はなかなか良くならない」と言っている人は少なくありません。
実際、生活指導を徹底している病院では、睡眠などの生活習慣が整わなければ、薬も出さない、という方針がとられていたりするそうです。
近年、精神医療の領域でも、栄養の大切さが注目されるようになってきました。
一般的な食事だけでは、脳を健康の働かせるのに必要な栄養が不足しがちです。コーヒーやパン、白米や麺類などではとても栄養が足りません。多くの日本人は高カロリーの栄養失調状態といえます。
(「現代型栄養失調」という言葉も登場しています。全体的に必要な栄養が不足していることが指摘されています。)
悩みから回復するためには、もっともっとビタミンやタンパク質を取らなければなりませんし、鉄分などのミネラルも不足しています。
例えば、よく肌荒れや口内炎ができるといった方は、確実に栄養が不足しています。
口内炎というのは一つにはビタミン不足で起きますが、肌や口の粘膜でさえビタミン不足を訴えているということは、脳は確実に栄養不足であるということになります。
そうした状態では、不安やイライラが生じて当然です。栄養が足りないと脳の中の生命を維持する領域(爬虫類脳)が危機を感じますから、そこから発せられるメッセージを受け取って解離してしまって、パーソナリティ障害のような理性を失うような状態になってしまうのです。
栄養は足りていないままにしておいて(睡眠時間も少ないまま)、抗うつ剤、抗不安剤を飲み、セラピーをあちこちと受けて「なかなか治らないんです」というのは大きな矛盾です。
昔、漫画「じゃりン子チエ」で、チエちゃんがおばあちゃんに相談しているシーンがありました(たしか屋台だったと思います)。
その時、おばあちゃんがチエちゃんに「悩むときはまず、おなか一杯にご飯を食べなさい。おなかが減っているときは人間は悪いことしか考えない。まずはおなかを満たしてからにしなさい」
といったようなことを諭していたのが印象に残っています。
悩みを抱えているときは、脳や体を栄養でジャブジャブに満たすくらいに、栄養を取らなければいけません。
具体的には、食事だけではなくサプリメントで補うなどして、栄養をしっかりと補うことが必須です。
参考:「マンガでわかる ココロの不調回復 食べてうつぬけ」「うつ・パニックは「鉄」不足が原因だった」など
運動も身体の「安心安全」を回復するためには、大切な要素となります。
ある研究では、週3回20分程度ウォーキングするだけで、うつと診断された人の9割が治るとされています。薬では2割しか治ら治らないのに対して、運動では9割という好成績。それくらい運動には効果があります。
おそらく有酸素運動を通じて、ストレスでダメージを負った心身の機能(自律神経系、免疫系、内分泌系など)が回復すると考えられます。
薬はあくまで脳内伝達物質にピンポイントに働きかけるだけですが、有酸素運動(そして、睡眠、食事)は身体全体に働きかけて、自然治癒力を助けて調子を健康な状態に戻してくれます。
参考:「脳を鍛えるには運動しかない」など
なかなか良くならない悩みを抱えている方の多くに共通するのは、生活習慣の乱れです。
ついつい心理的なことや家族関係といったことに目が行ってしまいますが、実際の症状は身体から生じており、その原因は、睡眠、食事、運動の不足にあることが多いです。
精神の失調を患っている方は、サバイバルモードになっているために、あるいは養育環境が過酷だったために、生活習慣が乱れた(自分を大事にしない)状態を普通としてしまっている傾向が多いです。
過酷な状況になじみがあり、そこで頑張ろうとしてしまう。
回復する足場(安心安全)を作るためには、心理的な問題とか家族との和解、といった難しいテーマに取り組むよりも前に、まずは睡眠、食事、運動を整える必要があります。足場がなければ戦えません。
生活習慣が乱れていると脳は「危険」と感じて、それが心の不安となって現れるようになります。
悩みの解決に取り組むのであれば、何よりも「睡眠」「食事」「運動」を整えることから始める。
身体レベル(内的環境)から「安心安全」を確立する、それだけでも私たちが抱える悩みの多くは解決するようになります。
●よろしければ、こちらもご覧ください。
・ブリーフセラピー・カウンセリング・センター公式ホームページ