悩みは、心理の外にある。

 

 現代の人間観というのは、基本的に、理性のある個人が自分で考えて行動する、というようにできています。

 

 そのため、悩みもその個人の責任、その人が選んだもの、努力で変えていくもの、という考えでできています。


 この考え方は脳科学など、最近の知見とは相いれないことがわかっています。
そして、実は、この考え方はいろいろと危険なものでもあります。結局、自分のものではないものまで、自分の責任とさせられて、挙句の果てには、カウンセラーからも、「あなたのせいだ」と責められ、傷つく要因にもなっています。


 悩みというのは、基本的には、自分の「心」の外側からもたらされます。

外的環境と、内的環境からです。

 外的環境とは、社会、会社、学校、家族などから
 内的環境とは、ホルモンや、遺伝子、体内細菌、影響物質、脳内伝達物質などから

 

 たとえば、最近どんどんと明らかになってきていますが、育児でお母さんがイライラするのは、昔はお母さんのお母さん業の未熟さや人格のせいとさせられたり、本人もそう思っていたかもしれませんが、誰にでも起きるホルモンの変化のせいだ、ということがわかっています。

 そのイライラは、心の問題でしょうか?

 

 なんでも心の問題に還元することを「心理主義」といいます。カウンセラーをしていて思うのは、「心理」が問題であることは、実は思っている以上に少ない。少ないというよりも、ほとんどないのではないかと思います。

 

 〝心理”カウンセラーと言いながら、問題のすべて(とあえて言い切りますが)は、心理にはなく、「心」の外側にあります。

 

 では、カウンセラーは何をしているのか?

認知行動療法と言って認知を扱う療法もあって、効果が出ているじゃないか?
といわれるかもしれませんが、実は、リフレーミング(枠組み転換)や、外部化、というメカニズムで説明されているように、「悩みは自分のせいではないんだな」と気づくお手伝いをしています。

 

 事実、悩みが解消されるときには、悩みの意味づけが変わり(そうか、これは自分にとって役に立つものなんだ!)、悩みは心の外側に追いやられて行きます(気にならなくなりました!)。

 悩みは、心理の外にある。

では、心理とは何か? といえば、せいぜいタッチパネルくらいの役割と言えます。

 

 

●昔から、悩みは心の外にあるものでした。

 

 実は、精神医学では、昔から心の病は「心理」の外にあるとしてきました。

 

例えば、心の悩みの原因として、以下の3つの分類があります。

「心因」:心が原因であるもの(ストレスや考え方など)

「外因」:その疾患以外に原因があるもの(脳の損傷や、他の臓器の影響など)

「内因」:その疾患そのものに原因があるもの心の病の王様である統合失調症やうつ病、双極性障害 はどこに分類されるかと言えば、「内因」になります。※ストレスが原因であれば、うつ状態ではありますがうつ病ではありません。

 

 つまり、心の病は、本来「心理」が原因ではないものとされてきたのです。

 

 「心理」の外にあって、了解できないままに症状が発症して薬の力を借りながら治すもの、なのです。心因でさえ、原因とされるのはストレス(外からくるもの)ですし、さらに、考え方も、実は、外的要因を内面化した束であることがわかってきていますから、心理のテリトリーは、どこにもないことがわかります。

 

「あなたの悩みの原因は、すべてあなたが選んだものだ」

 

なんて言っていたら、大笑いされてしまいます。

 悩みは選んだのではなくて、心の中にもなく、外側から否応なく、影響されてしまうもの、なのです。

 

 

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