人とは一体感を感じるには、「壁」が必要

 

 「人と壁を感じてしまう」「壁を感じずに人とコミュニケーションを取りたい」という悩みを持つ方は多いと思います。

 

 壁をなくすために、邪魔になっている信念をのぞいたり、フランクに付き合おうと意識したり。

 でも、それでうまくいったというのは、耳にしたことがありません。

 

 なぜなら、社会では相手とのコミュニケーションが食い違ったり、場合によっては、失礼なことを言われたり、といったストレスも多いです。壁がなく、あけっぴろげ、というわけにはいきません。
 

 もし、本当に壁がない人がいたら、その方は逆におかしい。

 他者と壁がない人について精神医学では、「脱抑制型対人交流障害」という病名がちゃんとあります。

 私たちは、他者とはしっかりと「壁」があって、それで接するのが当たり前です。
 人見知りしない、気さくな人でも、実は「壁」をちゃんと持っています。

 

 「でも、私には壁があって、それで苦しんでいる」という方は、実は、「壁」がうまく作れずに他人からやられっぱなしで、それが原因で心に痛みを感じていて、それが「壁」と感じられているのかもしれません。

 

 「壁」だと思っていたのは実はそれは「壁」ではなく「痛み」だった、というわけです。

 

 本来の人間は、自他の区別があって、壁があって、国境のようにそこには税関があって、チェックして安全だと思った人を通す仕組みになっている。それが自動的に働いてくれているので、ストレスなく〝交流”ができています。
 でも、もし、国境やそれを守る警備隊がなければ、不法侵入され、他者というのは痛みをもたらす侵略者として感じられてしまうことでしょう。

 

 壁があることは悪いことではなく、ないといけない、壁があるから、安心して、人と交流ができる。

 

 その壁を作るのが「ストレス応答系」です。
 ストレスホルモンなどが壁の役割をしていて、人との壁を作ると同時に一体感を作り、交流も行ってくれています。

 

 ストレスが来たときには、ストレスホルモンが上昇して、ストレスを中和すると同時に、ストレスホルモンの波形そのものが、人とのラポール、ペーシングを担っていて、一体感の源にもなっている。

 

 上にも書きましたが、壁をなくそうとする努力は、国境や警備隊をなくそうとするようなもので、かえって他者と交流が持てなくなってしまいます。

 

 「トラウマ」とは、国境や警備隊がぐちゃぐちゃになって、実は本当の「壁」がなくて、「痛み」を壁だと感じている状態のことかもしれせん。

 

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

 

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「待つ」ことができない~世の中のありのままが感じられなくなる

 今年は、明治維新150年の年だそうです。江戸時代のころから、今のようにスマホを駆使したり、仮想通貨やドローンや、IPS細胞などといった技術や高い水準の生活になるのに、わずか150年でここまで来たことになります。

 

 ちなみに、何かの広告で目にしましたが、きんさん、ぎんさんの娘さんたちも今年で100歳だそうです。きんさん、ぎんさんが生きていれば126歳だそうですから、一人の人間の一生分の時間の中でも様々なことが起きることが分かります。

 

 日本でも、日清戦争、日露戦争、一次大戦、関東大震災に、第二次世界大戦があり、占領後の復興後があり、また震災などがあり。静かに何もなく過ごすことが難しいくらいです。

 たった150年くらいの間に、これだけのことが詰まっているのはなぜか不思議な感覚があります。

 

 実はこれは、時間の感覚に対する「錯誤」といいます。
 錯誤とは、例えば、計画や予定などで、時間の感覚を読み違えたりすることです。
 思ったよりも早く仕事が終わったり、思ったよりも時間がかかったりということはしばしば体験することです。
 「時間」というのは不思議なもので、それだけで哲学や心理学、脳科学などの研究となるものです。

 

 私たちは主観的で、時間をかなりゆがめてみてしまいます。

 

 特にトラウマを負ったり、うつ状態などになると、「時間」はかなり歪んでしまう。
 人生がお先真っ暗に見えてしまい、世の中がつまらなく思えるようになります。もう楽しいことは何も起こらないように思えます。
 (“精神的焦燥”は、気分障害、不安障害などでしばしば見られる症状です。)

 

 でも、実際は、それは歪み(錯誤)でしかなく、恐れているようなかたちで平凡で生きることのほうが難しいかもしれません。

 

 心理学者の河合隼雄が、作家・村上春樹との対談の中で
 村上春樹が、読者から小説のような都合の良い偶然は起きない、と言われたということに対して河合隼雄が、世の中には面白い偶然がいっぱいあるのに、それを書くと、小説みたいな都合の良い偶然はそうそう起きない、といわれてしまう。
 皆が「現実はこうあるべきだ(偶然など起こらない)」と信じてしまっている、と嘆きます。
 そして、悩みを直すためには「偶然を待つ力」が必要なのに、何か必然的な方法で治そうとしてみんな失敗する、とおっしゃっています。

 

 「偶然を待つ」というのは、哲学的な美談や、道徳的な心構えではありません。私たちが生きる上で実際的なことではないかと思います。

 

 事実、明治維新後、150年でこれだけ社会は変わるし、世の中も二転三転する。きんさん、ぎんさんの人生分の時間の間に、全体主義や社会主義国は隆盛して、衰退してしまうほどです。信じられないような偶然というのも珍しいものではありません。

 

 

 偶然を待てない、というのはトラウマを負ったり、精神的に不調にある時に特徴的な症状です。漠然と将来が不安になり、なんとか未来を確定させたいとして、繰り返し占いを受けたり、引き寄せの法則にはまったり、といったことが起こる。

 

 面白い逆説ですが、
 引き寄せなど、スピリチュアルなものは「反近代」「癒し」のような顔をしながら、とても「近代的(現代的)」で「トラウマティック」なのです。
 
 なぜかと言えば、偶然を待てず、とてもせっかちで、実は将来が不安で、未来を確定させようと躍起だからです。
 そして、多様性がなく、最後はすべては個人の責任だ、となってしまうのですから。
 (スピード重視(≒何かしていないと落ち着かない)、成長パラノイア(≒今の自分ではだめ)、個人主義(≒自責)など近代、そしてトラウマの特徴そのままです)

 

 河合隼雄が指摘するように、必然的な方法でなんとかしようとして、結局、失敗してしまっています。

 

 偶然を待てなくなる状態の究極が「依存症」です。
 報酬系が狂ってしまうために、今が生きづらすぎて、未来に来るはずの結果を待てない。
 実は、依存症の方たちは、我慢強い人たちで、自分で何とかしようとしすぎて、必然的な方法(お酒や薬物とか)に頼ってしまう。
 偶然を待ちましょう、というアドバイスはどうにも不確かで、他力本願過ぎるように感じてしまうのです。

 

 思えば、仕事でも趣味でもなんでも、人生は待っている時間のほうが多いのですが、世の中では、何かをしなさい、速くしなさい、という人や本はたくさんありますが、
 待ち方、を教えてくれることはほとんどありません。 

 

 むしろ現代では、待っていてはいけない(急げ)、という主張が圧倒的ですし、未来はつまらない、と負の暗示を家族や周囲の人がいれてくることも多いです。
 意識してそれらを外すことをしなければいけないのかもしれません。

 

 

 偶然を待つ、というのは世の中の裏ルール(2階建ての1階部分)の一つではないかと思います。心身が健康な状態であれば、直観的にも感じ取れるものでもあります。何となく世の中で身に着けていくものです。
 トラウマが取れていくと自然と肌で分かってくる感じがあります。

 

 

 「待つ」といっても、つまらないものではなく、明治維新150年でこれだけになったように、“環境”には「偶然」が満ち満ちている。私たちの残り何十年の人生でも、様々なことはたくさん起こってくる。つまらないなんて言っていられないくらいに。

 

 
 おそらくですが、ありのままの世の中は、トラウマに苛まれている時に見るような不安な姿ではないし、つまらないものでもないし、かといって、スピリチュアルとか自己啓発、ポップ心理学の主催者たちが主張するような姿ともまったく異なる。

 

 ありのままの世の中とは、トラウマの影響がなく、健全で成熟した状態にあるときに肌で感じるような、それは当然、個人に属しているのではなく、“環境に”広がっているもの。ありのままに見ようとすれば、あちらこちらにあると感じ取れる。

 

 なかなか言葉にしにくく、言葉にすると「偶然を待つ」といったようなもの、不安になって、必然を求めて個人に引き寄せ確定させようとすると陳腐に歪んでしまう、
 そんなものではないかと感じます。

 

 

(参考)→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

 

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「運動」の動機づけに:脳を鍛えるには運動しかない

 

 先日、食事、睡眠、運動について書かせていただきましたが、

(参考)→「結局のところ、セラピー、カウンセリングもいいけど、睡眠、食事、運動、環境が“とても”大切

 

 以前、お医者様とそのことでお話ししていると、「その通りですよね。ただ、患者さんへの動機づけが難しいんですよね」とおっしゃっていました。

 

 人間は底をつかないとなかなか動けない、というところもありますが、それ以前に知識や情報が入れば試してみよう、という方もいらっしゃいます。

 

 「運動」については、以下の本は参考になります。

 研究によっての裏付け(不安、パニック、うつ、ADHD、依存症などにも効果があることが示されています)や、実際にどのような運動をすればいいのかが載っています。

 ポップなタイトルとは異なり、内容は専門的ですが、よろしければご覧になられるとよいかもしれません。

 

ジョン J. レイティ, エリック ヘイガーマン「脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方」

 

 

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