親に検査を受けさせたい。

 

 前回の記事で、愛せない裏にある、疾患、障害(=失調、いわゆる障がい者という意味ではありません。)についてお伝えさせていただきました。

 

 そのように書きますと、当然のこととして、「では、検査やカウンセリングを受けさせた方がいいのでしょうか?」とおっしゃる方もいらっしゃいます。

 

 結論から言えば、本人が望めば受けてみてもいいけど、必ずしも必要ない、ということになります。
(認知症など器質的な問題についてはちゃんと受けた方がいいと思います。)

 

 なぜかというと、ご本人にお会いしなくても、ある程度、医師やカウンセラーが概要を伺えば、その可能性を見立てることはできますし、その見立てや理解してもらったこと自体が、これまでのわだかまりを一定程度解消させる力があるからです。

 

 極端に言えば、現行の発達検査も絶対完璧ではありませんし、答え合わせができないので、本当にそうかどうかまではわからない、ということもあります。

 また、本人が望まなければ受けさせることはできない、という現実的な問題もあります。

 

 当事者が、納得する材料や適切な対応方針を知るために、その可能性を知っておく、ということが大切になります。知っていれば、自分自身が適切なカウンセリングを選ぶ材料にもなります。

 

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お悩みの原因や解決方法について

 

子を愛せない親の”意外な理由”

 

 前回の記事でも書きましたが、ご両親に愛情をもって接してきてもらえなかった、そして、現在も苦しんでいる、という方はとても多いです。

「いや、親子の対立をあおるようなことはすべきではない。」
「親はやっぱり子を愛している。そうではないのは余裕がなかったからだ」

といった価値観を持つ支援者もいます。

 


 家族研究や、最近の臨床の知見からすれば、それは正しいとらえ方とは言えません。家族は自然と成立するものではなく、社会的機能であり、条件が欠けて機能が満たされないことのほうが多いですし、他の生物でも育児放棄がみられることから、人間の家族も理想通りにはいかなくて当たり前だ、という前提に立つべきなのです。

 

 臨床をしていて感じるのは、残念ながら、いろいろな理由から、親とは言え愛情を持てない人たちは確実にいらっしゃる、ということです。そうした環境の渦中にいる方が知っていただきたいのは、大きく2つです。

 

まず一つには、
 「愛されないのは自分のせいではない」

ということです。


 ご両親がいくら、「あんたは憎たらしい」とか、「かわいげがない(だから私は愛さないのだ)」と言っていたとしてもです。それは、相手を攻撃するための言葉です。攻撃することが目的だから傷つくのであって、発言内容は真実ではありません。そして、その言葉は下記に記す問題からくることも多いのです。

 

 その問題とは、障害・疾病の可能性です。

 

 愛情を持てない方の中には、今でいう発達障害(≒愛着障害、パーソナリティ障害、トラウマ)を持つ人が多くいらっしゃる、ということです

→「大人の発達障害の本当の原因と特徴~様々な悩みの背景となるもの

→「「愛着障害」とは何か?その症状・特徴と治療、克服のために必要なこと

→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

 アスペルガー障害が正式に取り上げられたのは、1980年代でごく最近のことです。 乳幼児健診でスクリーニングされるようになるのも昭和40年以降のことです。
(乳幼児健診では、軽度の発達障害は見逃されることも多いです)

年配のご両親だと、そのスクリーニングがないまま、現在に至っていると考えられます。

 

 ご両親が発達障害であることに気が付かないまま、ご両親と言い合いになったり、愛情を求めて通じずに傷つく。デリカシーの無い言動を繰り返されて、ボロボロになる、といったことがあります。

 

 現在は発達障害の知見も積みあがってきているため、あらためて医師やカウンセラーが見ると、発達障害の疑いが濃厚であるというケースは多いのです。

 


 あと、別のケースでは、ある女性のクライアントが父親からずーっと虐待(暴力)を受けていて、そのことを問いただしても父親はそのことを全く覚えていない、ということがありました。そのケースでは、クライアントの主治医曰く、「お父様はてんかんかもしれないね」ということもあります。
※てんかんと発達障害とは併発することも多いです。

 

 また、別のケースでは、これも女性ですが、年配の親の暴言、汚言が止まらず、いつも些細なことでいざこざになって悩んでいた、ということがありました。病院で、検査をしてみたら、認知症によって前頭葉の機能が低下していた、といったことがありました。

 

 さらに別のケースでは、実は、チック(トゥレット症候群)であったということもあります。

 

 こうしたことも知らぬままに、同じ土俵で向き合っても何も生み出さず、疲弊するだけ、となってしまいます。しかし、実は発達障害やその他の疾病が関連していたんだ、と知ったとたんに、「スーッと楽になった」「親に執着しなくなった」「あまり関わらなくなった」というクライアントさんはとても多いです。

 

 こうしたことは、まだあまり知られていません。その理由の一つは、臨床心理、心理療法の過度な”心理偏重”があります。「悩みは、心の外にある」という前提に立てば、見えなかったことがいろいろと見えてきます。

 

 親との関係に悩んでいらっしゃる場合は、いきなり親子関係の問題としてとらえずに少し立ち止まって上記の可能性を考えてみてください。”適切な反抗”によって、自他の区別を確立することにも役に立ちます。

 

 そして繰り返しになりますが、お悩みの方ご自身は何も悪くありません。自分に問題があるから愛情が得られない、といったことはありませんから、ぜひご安心いただければと思います。

 

 ※発達障害だから必然的に愛情を持てないわけではありません。発達障害とは、とても広範な症状です。とても愛情深い方、その人なりにとても周りに気を遣う方、定型発達では考えられないくらいの人格者もいらっしゃいます。俗に言われるような発達障害=人の気持ちがわからない、ということではないこともぜひお知りいただければ幸いです。

 

 

 

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虐待などつらい体験は理解されない

 

 クライアントさんからよく聞かされる話で多いのは、医師やカウンセラーから、養育環境で負った理不尽な経験をなかなか理解してもらえない、ということです。
(真の理解とは何か?というと深いテーマになりますが、それはここでは置いておいて)

 

 目の前にいる方がクライアント(患者さん)なのですから、その方のいうことをまず受け止めずに、あたかも客観的な第三者のようにふるまってしまうことが多いようです。

 

つまり、
「(酷いことをした)親にも何か事情があったんですよ~」
「お母さんも、余裕がなかったんですね~」

といった反応を返されてしまうのです。

 

 

 虐待ネグレクトやハラスメント、それに近い目にあったクライアントからすると、心の底からがっかりする対応です。
(ある著名な医師にかかった際も、そのように返答されて失望した、というクライアントが実際にいらっしゃいました。)

 

 人間は、喧嘩両成敗のような対応が一番傷つくものです。喧嘩両成敗とは、本来の意味から誤解されて広まった悪しき因習・態度だと思います。

 

 残念ながら、子に愛情を持てない親御さんがいらっしゃることは明白な事実です。
(最近では、その裏には発達障害やてんかんといった背景があることも分かってきています。)

 人は、見たくない事実は見ない。見たいものだけを見る。トラウマ(虐待)への歴史でも、これまで、人間の行う理不尽な行動は否認されてきました。

→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

 客観的にふるまう人ほど、無自覚に時代や、時代に影響された自己の価値観を持ち込んでバイアスをかけてしまうようです。

 

 虐待やハラスメントは密室の犯罪行為なのですから、被害者の立場に立って能動的に切り込んでいかなければならないのに、受動的に喧嘩両成敗といった態度でふるまうことは、能動的に問題を理解することを放棄することで共犯(セカンドハラスメント)と言ってもいいような行為です。
→「あなたの苦しみはモラハラのせいかも?<ハラスメント>とは何か

 


 喧嘩両成敗とはあたかも客観的にものが見えると勘違いする“エセ神様”状態になることです。クライアントは、世の“真実”を見て、サバイバルしてきた方たちです。
孤独な戦いを続けてきて、解決に必要な切り口、足場、サポートを求めているのです。ともに戦ってほしいのであって、ズレた論点整理など必要としていません。

 

 クライアントは、良い支援者とつながることも自力で行わなければならない、というのはなんともつらいことですが、それでも、理解してくれるカウンセラーや医師は必ずいますから、あきらめないで求め続けていただきたいなと思います。

 

 

 

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”反抗期”の効用

 

 「自他の区別」をつける、タイミングはいろいろありますが、最も大きなタイミングは「反抗期」です。

 

 反抗期の効用は、親の価値観から離れる(「(心の中で)親を殺す」と言われる)こと、そしてそれまでの一元的な視点から、多元的な視点を身に着けることです。
トラウマを負った人の多くは、反抗期が無かったり、あるにはあったけど中途半端だったりします。

 

 トラウマを負うと、「ニセ成熟」となり、精神的には妙にマセてしまったり、感情を回避したりということが起きています。

 普通であれば、大人と戦って、乗り越えていく、ということですが、それをせずに、最初から頭の中で成熟してしまっていて、反抗期を回避してしまうことがあります。

 

 すると、本人の中では「反抗期はあった(と思う)」となっていますが、本当の意味での反抗期とはなっておらず、親の価値観から離れているようで離れていない、「自他の区別」が付けられない、ということが起きてしまいます。

 

 本人が反抗期と思っていたことは、親の価値観を早期に内面化して、頭の中で親を超えてしまっているだけだ、ということです。

 さらに、家族が機能不全を起こしていれば、なお、それは強くなります。父親や母親は親としての機能を果たすことができずに、子どもから「見下され」たりします。

 そうすると、反抗して乗り越える、というよりは、見下されて、「自分のほうがちゃんとしている」として、内実は、単に親の価値観を再編成しただけの中途半端な“反抗”になってしまうのです。

 

 トラウマを負っているために、妙な理想主義となり、一元的なままになって、自分の価値観に合う者とはいいですが、合わない者とは折り合えない。
 何か真実を知っていそうな雰囲気の人に支配されてしまったり、妙にした手に出てしまったり、不安になってしまったりするようになります。


 成人になり、悩みを持つ方には、つらい養育環境で育った方も多いですが、 辛さの根底には、「親の価値観を相対化できない」ことがあります。それによって、自他の区別がつけれず、多元的にスイッチできない。
 多元的とは、「自分は自分のままでいい」と思えることでもあります。親の価値観と離れないままだと、それが上手くいかないことが多いのです。

 

 そうした方に、親と仲が悪いのだから「親との和解(親を肯定的に評価しましょう)」を提案するカウンセリングもありますが、このように考えるとおかしなことだということがわかります。

 

 むしろ、反抗期を中途半端にし続けて、傷がぐずぐず膿み続けるような状態を続けることにもなりかねません。いったん、そうしたことには決着をつける、ということは大切なことなのです。

 

●適切な反抗を意図する

 

 反抗期とは、成長期のホルモンバランスの乱れによるも のとされます。本能的なものとされます。


 ただ、ホルモンの乱れでイライラする、という生物学的な機能と、親の価値観との決別という社会的な機能とは、別だと考えられます。
 社会的な機能は環境が整わないと不発に終わることも多いのです。ただイライラするだけで終わってしまったり、それすら十分に感じられなかったり、といったことです。

 

 反抗するためには、相対化する立脚点が必要になります。しかし、現代のような核家族で閉じられた社会の中では、親の価値観が覆ってしまっていて、反抗すらできないような状況にあることも少なくありません。

 

 ダブルバインド(二重のメッセージによる呪縛)という現象がありますが、反抗することへの強い罪悪感であったり、反抗すること事態の親の価値観に沿うといったような巧妙な精神的支配をかけられていることで、うまく果たすことができないままでいることも多いのです。

 

 また、イライラは激しいが、ただ暴言や暴力として表現されるだけで、立脚点がないために反抗期の機能は果たされていないというケースも多いです。
ただ、イライラ暴れていたから反抗期があった、という本人も記憶していますが、実はそれは反抗期ではなかった、ということがあります。

 

 立脚点とは、かつてであれば、元服した先にある“社会”であったり、丁稚などで就く“しごと”であったり、カウンターカルチャーの価値観、家族外の年長者の価値観であったり、したのでしょう。

 

 機能不全家族などの場合、家族がカルトのように閉じてしまうために、あるいは優等生になって家族を守ろうとするために、反抗が上手くいかなくなってしまうのかもしれません。

→「<家族>とは何か?家族の機能と機能不全

 

 

 愛着(親子)の問題を解決する際に、和解や理解にばかり焦点が当てられますが、むしろ逆で、実際に家族との関係でお悩みの方は、“適切な反抗”をどうして達成するか?にこそ焦点を当ててみると、解決の糸口が見えるかもしれません。

 

●適切な反抗とはなにか?

 

 反抗、というと文句を言ったり、暴言を吐いたりするようなことをイメージされるかもしれませんが、そのようなことではありません。

 

適切な反抗とは

 ・これまでの養育環境から受けた影響を相対化(自他の区別をつける)すること

であり、

 

さらに細かく言えば、

 1.ダブルバインド(支配)に気づくこと
 2.トラウマを解消すること
 3.一元的な価値観の世界から、多元的な価値観の世界に移ること
   (私は私、あなたはあなた)

です。

 

 ダブルバインド(支配)とは、まさに正論(常識)をもとに相手を支配することです。
→「モラハラへの対策、治療のために知っておきたい6つのこと
ご自身が罪悪感や自信の無さ、惨めさや苦しさを感じていたら、ダブルバインドやトラウマの影響が考えられます。

 

 

 例えば、「自分が悪い」「自分はダメな人間だ」という根拠はどこから来るのでしょうか?

 結局、ゴールポストを自在に動かす人(親、上司など)がいて、シュートが外させられて、「ダメな人間」という烙印を押されているだけなのです。

 

 ダブルバインド(支配)とは、簡単に言えばゴールポストを勝手に動かされてしまって罪や罰を作らされてしまう行為を言います。

 トラウマは、ダブルバインドから抜けられなくしている過去に追った傷、スティグマ(烙印)です。

→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服

 

 

ダブルバインド(支配)の理屈を聞いても、
「そうはいいますけど、私は“現実に”ダメな人間です。なぜかというとこんなことがあった、あんなことがあった・・・」
と当事者は思ってしまっています。

「こんなこと」「あんなこと」がまさにトラウマです。

 

 普通であれば、記憶とともに流れていくものですが、それが流れず頭に残ってしまっていて「お前はダメな人間だ!」とささやき続けているのです。

 

 

 さらに、一元的な価値観から多元的な価値観へ、というのはもうすこし簡単に言えば、「私は私」と思えることです。反抗期とはまさにこれを達成するためにあります。

 

 例えば、仕事にしても人生にしても、正しい方法や価値観(反抗期の前は親の価値観)が一つだけあって、自分はそれが身についていない、知らない、と思ってしまうのが、一元的な価値観です。

 

 一方、仕事も人生も人ぞれぞれ、価値観も取り組み方も違う、違ってていい、と思えるのが多元的価値観の世界です。相手が総理大臣であれ、社長であれ、あなたはあなた、私は私、と思えることです。

 

 支配やトラウマを負っていると、一元的な価値観に染まってしまってそこから抜けられなくなってしまいます。
社会に出ても、支配的な人が寄ってきて「私はあなた以上のものを知っている」と誘惑してきます。

 

 でも、世界は多元的だと知ると、見え方がガラッと変わります。

親も親で、あれはあれでいい、でも私は私、と思えるようになります。動じなくなるし、罪や罰もなくなります。

 “適切な反抗”とは、本来生きる世界への入り口となります。

 

 

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