夫婦げんかを普通と思っていた

 

 トラウマを負った人たちは、しばしば、夫婦げんかなど家庭の中の理不尽さを普通のことだと思っていることがあります。

 

筆者もそうでした。

 

 家が自営業をしていました。
父親は、話すと止まらなくなるような性格の人で、テンションが上がって母とけんかをしていました。
父は「段取りが悪い」というのが口癖で、今思えば、怒るような必要もない些細なことで怒っていました。

 

 デパートなどに、外に家族で遊びに行くと必ず夫婦げんか。

 正月も元旦から夫婦けんか。

 時間に家族がそろわない、という、これも今から考えればどうにでもなるような出来事をめぐってのことです。

 

 社会でいう幸せな時ほどけんかが起きる、という考えれば本当にばかばかしい状態です。

 

 ある時は、晩御飯で手巻き寿司の日だったのですが、ケンカをして激昂した父が、寿司桶で母を殴り、母は父方の祖父に連れられて病院に行って、網をかぶって帰ってきたことがあります。

小さい時は、
「今日は二人は機嫌が良いか」と心配して顔色を窺っていましたし、子供なりに、何とか場を和ませようとしていた覚えがあります。

 

 しかし、それも通じなくなると、人に対する効力感が下がってきます。
人間の感情というものが嫌になりますし、大人に対する信頼も下がってきます。

 

 どうしようもないので、布団をかぶって、ぬいぐるみ相手にファンタジーの世界に浸る、ということで何とかしのでいたように思います。

 

 ある時、どういうわけか、ペットの犬が家にやってきたのですが、それでずいぶんと、家庭が和み、けんかが減ったことを覚えています。

 “機能不全家族”は、冗談が通じない、失敗が許されないが、という特徴がありますが、ペットは、そうした異常さを緩和してくれる効果があるのでしょう。

(参考)

→「<家族>とは何か?家族の機能と機能不全

 

 犬が家に来なかったら、もっとひどいことになっていたかもしれません。

 

 

 その後、筆者は大学へと進学します。

ある日、サークルの合宿で確か伊勢に行った際に、夜、先輩たちと話をする機会があって、そこで女性の先輩が言った一言に衝撃を受けます。

それは、
「私、親がケンカしているのを見たことがないんですよね」

という一言です。

 

 

 えっ、夫婦って毎日けんかするものじゃないの?!

と目を丸くしたことを覚えています。
トラウマに小さなカウンターが打たれた瞬間だったかもしれません。

 

 

 夫婦げんかだけではないですが、家の常識や思い込みというのは私たちには強く影響しています。
特にトラウマを負った人にはそれが顕著に現れます。

 

 

(参考)

→「トラウマ、PTSDとは何か?あなたの悩みの根本原因と克服